北海道大学の研究グループは,通常の結合長より17%も長い炭素-炭素単結合を持つ安定な化合物の創出に成功した(ニュースリリース)。
オリンピックのように,化学の世界にも記録更新を目指した研究があり,例えば,物質を構成する化学結合の限界に挑戦し,「世界一長い化学結合の創出」を目指した競争的研究が行なわれてきた。
このような記録は歴史に残るだけでなく,その過程で得られる新たな知見は基礎化学の発展にも大きく寄与する。研究グループは,有機化合物の基礎となる炭素-炭素単結合に着目し,「分子内コア-シェル構造」に基づく独自の分子設計戦略によって,標準結合長(1.54Å)より17%も長い,1.806(2) Å(括弧内の数字は標準偏差で1.806±0.002Åを意味する)という世界一長い炭素-炭素単結合を有する化合物の創出に成功した。
これまでの研究では1.803Åを超える炭素-炭素結合は存在しないとの予測もあったが,今回,単結晶を用いて詳細に解析することで,1.803Åを超える結合が存在していることを実験的に証明できた。
このように長い結合は結合エネルギーが小さく,一般には不安定と考えられるが,100℃以上の高温下,あるいは溶液中(室温)で100日経っても分解しないほどの安定性を有することも確認した。
この成果は,世界記録の更新に留まらず,化学結合の極限状態で生じる現象の解明につながるもの。例えば,1.8Åを超える「超結合」は,外部刺激に柔軟に応答する可能性を秘めており,新たな材料開発への応用が期待されるとしている。