産総研,繰返し使える光硬化性接着剤を開発

産業技術総合研究所(産総研)は,接着と脱着を制御でき,繰り返し使える光硬化性接着剤を開発した(ニュースリリース)。

光硬化性接着剤は,室温で塗布でき,すぐに硬化が可能であるという優れた特長により,エレクトロニクス分野や歯科用接着などで広く利用されている。しかし,これまでの光硬化性接着剤のほとんどは,元の液体状態には戻らない不可逆な硬化過程を利用したものであったため,易解体性,再作業性がなく,いったん接着した箇所の修復による歩留まり向上やリサイクルの観点から課題があった。

産総研では,これまでに,光照射により室温で液化-固化を繰り返す材料を開発し,脱着可能な接着剤としての応用を検討してきた。この材料は,可逆的光反応性部位をもつ化合物からなり,光反応前後の分子構造の違いで融点(軟化点)が室温をまたいで可逆的に変化するため,液化-固化を光反応により制御できる。

しかし,光反応性部位にアゾベンゼン系の色素を用いていたため,接着剤自身が黄色~橙色に着色していること,固化した接着剤の力学的な強度が低く,さらに接着剤の初期状態が固体といった複数の課題があった。

今回,材料を無色透明化するために,可視光領域でほとんど光を吸収しないアントラセンを光応答性部位として用いた。アントラセン自体は結晶(固体)だが,光を吸収して,分子間で2量化して硬化し,加熱によって解離する。そこで,アントラセン同士の分子配列を阻害して結晶化を防ぎ,室温で液体状態が安定となる分子構造を設計した。

この分子は,複数のアントラセンをエステル結合を介して糖アルコール(D-ソルビトールなど)に導入した構造で,入手しやすい原料から簡単に合成できる。合成した化合物は,室温で液体であり基材へ容易に塗布できた。塗布後の膜に,吸収端の波長にあたる400~420nmの光を照射すると,分子間でアントラセン基の2量化による架橋反応が起こって硬化し,着色も生じないで透明の硬化膜となった。

液体状態のこの化合物を,ガラス基板に塗布して挟み込み,400~420nmの光で硬化させるとガラス基板を接着できた。このときのせん断接着強度は,これまでのアゾベンゼン系の約5倍で,ガラス基板の破断強度に達した(>5MPa)。接着状態は,100℃でも安定に保たれたが,150℃以上に加熱すると,架橋部分の熱解離により液化し,容易に脱着できた。液体状態に戻った化合物に再び光照射を行なうと再接着も可能であり,この光硬化(接着),熱液化(脱着)のプロセスは,少なくとも5回以上繰り返すことができた。

今後は,仮止め剤や解体時に基材を傷めず剥離可能な接着剤,再接着可能な再作業性に優れた接着剤などの高機能接着剤への展開,さらに解体性の塗膜としての応用も視野に入れて,研究開発を進めていくとしている。

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