阪大,プラズマの表面張力が光を押し戻すことを発見

大阪大学の研究グループは,高強度の光と物質の相互作用において,物質が星の内部に匹敵する超高圧のプラズマ状態に加熱され,プラズマの表面張力が光を押し戻すことを,世界で初めて理論的に明らかにした(ニュースリリース)。

高強度レーザー装置を用いると,1キロジュール(0.25キロカロリー)のエネルギーを持つ光を半径100分の1ミリメートルに集光し,1兆分の1秒(1ピコ秒)の時間に圧縮することで,ギガバール(約10億気圧)という高いエネルギー密度(=高い圧力)を持つ高強度の光を生成することができる。これは,地上で実現できる最強の光の圧力。

このような高強度の光を物質に照射すると,物質は一瞬のうちに電離し,プラズマ状態となる。弱い光は,プラズマの密度が遮断密度以下の領域しか伝播することができず,金属表面などと同じように光は反射される。光の強度が強くなると,光の圧力でプラズマを押し込み,遮断密度を越えてプラズマ中に異常侵入する。

この過程は,光が物質を押し進む様子からホールボーリングと呼ばれ,プラズマの奥深くまでレーザー光のエネルギーを与えることができる方法として20年以上研究されてきた。これまで,高強度の光は,照射時間中はプラズマを押し進み続けると考えられてきた。

研究では,高強度の光をプラズマに照射し続けると,プラズマが星の内部に匹敵する超高圧状態に加熱されて光の圧力とプラズマの圧力がつり合い,光の異常侵入が停止して,プラズマが光を押し戻すことを理論的に提唱した。光がプラズマを押す過程を詳細に見ると,光はプラズマ表面の電子だけを前方に押し込み,表面に電場を励起する。

電子より重いイオンは,電子が作った表面電場に引っ張られて後からゆっくりと前方に移動し,この過程でプラズマに穴が開いていく。この表面電場が,表面張力としてプラズマの圧力を助けることで,光の圧力とバランスし,光の異常侵入が停止することを発見した。この状態を方程式で表して,密度について解くことで,異常侵入が停止する密度が初めて明らかになった。

光を照射し続けると,加熱されたプラズマの圧力がさらに上昇し,プラズマが光を押し戻して高圧力で吹き出し始める。このとき,吹き出したプラズマ中の電子が光によって強い加速を受け,高いエネルギーを持つ電子が大量に生成されることもわかってきた。異常侵入モードから吹き出しモードへの状態遷移の理解は,プラズマ粒子加速やプラズマ加熱を制御し,効率上昇などの最適化へ導く指針となる。

強い光と物質(プラズマ)との相互作用の基本的な性質の一つを理論的に解明したこの成果は,光が作る高圧力状態での様々な物理現象の解明に貢献するもの。レーザー光で超高圧プラズマを生成し,その特性を理解して制御することで,星の内部や宇宙空間に満たされているプラズマが作り出す様々な天文現象の解明に寄与することができ(実験室宇宙物理学),また高効率の粒子加速とその医療応用や,核融合エネルギー開発など革新的な技術の進展に繋がることが期待されるとしている

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