【OPIE’17】キャスレー,光の回折を超える画像鮮鋭化技術を展示

キャスレーコンサルティングは,数学的アプローチにより,画像データを直接鮮鋭化する技術「新型ノンブラインド デコンボリューション」を開発した。

これは画像データに適用するアルゴリズムで,幅広く全ての光学系に使うことができる。これにより回折限界を超える数nmレベルの鮮鋭化が可能なので,光学顕微鏡でも 細胞活動やタンパク質を捉えることができる。さらに真空や前処理が不要なため,標本にダメージを与えずにライブイメージングを実現する。

従来の画像鮮鋭化技術がフーリエ変 換を使っているのに対し,この技術は 特殊なヒルベルト変換による逆畳込み法を用いる。特許面からも全く新しい原理だといい,レンズやセンサーを最適化すれば,理論的には可視光の回折限界である200nmの40倍となる5nmの観察像を得ることが可能だとする。光学系が最適化されていない場合でも最大で10倍程度の鮮鋭化が可能で,センサーの微細化・高画素化が進む中,レンズの性能が追いついていないような場合に特に威力を発揮するという。

この技術について,開発を担当した西形淳氏はこう説明している。「従来技術とは違い,『新型ノンブラインド デコンボリューション』はレンズの点像分布関数(PSF)をデルタ関数へ変換するようなFIRフィルターを用いてデコンボリューションを実現しています。」

「FIRフィルタリングといえばアンシャープマスクが有名ですが,弊社の画像処理はこれとは全く違い,積分幾何学と特殊なヒルベルト変換によって構築した独自のFIRフィルターにより点像回復を行なうことで,「コントラス ト回復」「エッジ強調」「分解能改善」 の効果を得ることができます。高SN画像であれば積算処理をせずとも僅か1フレームの画像で高速に絶大効果が得られ,例えば回折限界で撮影された画像に適応すれば回折限界を10倍以上超えた精細画像を得ることができます。」

「このような高度な鮮鋭化の背景には 「周波数空間を見ない」画像処理があります。鮮鋭化技術というと高周波成分の回復であると捉えがちですが,周波数空間を見てしまうとフレーム窓(窓関数)やPSFの周波数特性などによる短時間フーリエ変換の不確定性によって,解析の限界に嵌ってしまいます。弊社の画像処理では実空間でPSFを特殊なヒルベルト核に変換する工程が新規性のボトルネックであり,最終的に逆ヒルベルト変換を掛けることでPSFのデルタ関数化を図っています」。

同社ではこの技術の有効性を証明するため,東京農工大学准教授の室尾和之氏に協力を依頼し,センサー上に2本のガウシアンビームを照射して得られた画像の鮮鋭化を行なっている。

この実験では半径70.2μmのぼやけた1つの楕円像に広がってしまったビームプロファイルデータを,鮮鋭化処理により半径7.8μmの2つの鮮明な点像に変換することに成功。2本のガウシア ンビームが分離されたことで,このアルゴリズムが正しく作用したことと,9倍の高精細化を実現できることを証明した。この成果は2015年12月に行なわれた,レーザー学会・第485回研究会にて発表されている。

この,「ノンブラインド デコンボリューション」の開発が評価され,西 形氏は,テクノロジー系メディア「WIRED」とドイツの自動車メーカー「Audi」が主催する「WIRED Audi INNOVATION AWARD」を2016年に受賞した。なお,同賞はバイオイメージング法のImPACTプログラム・マネージャーを務める,東京大学教授の合田 圭介氏も受賞している。

キャスレーコンサルティングではバイオ分野におけるライブイメージングの他,半導体や化学/素材分野など,検査や研究に電子顕微鏡を用いている業界にその代替としてこの技術を提案している。現在,製品化に向けてUSBによる外付け鮮鋭化ユニットと,FPGAそのものを機器に内蔵する2つのタイプの準備を進めており,1,2年以内のリリースを目指している。また,送ってもらった画像データを鮮鋭化して戻すというWEBサービスも既に始めている。

さらに,処理が高速なので静止画だけではなく,動画にも応用することもできる。PCの性能に依存するものの4Kにも対応するとしており,現在,生きた細胞の動画撮影や,低コストレンズにおける監視カメラ鮮鋭化についてメーカーや大学と共同研究を進めている。光学顕微鏡以外にもデジタルカメラや望遠鏡などの画像鮮鋭化にも使える技術なので,応用次第でその可能性はさらに広がりそうだ。

キャスレーコンサルティングは,4月19日(水)~21日(金),パシフィコ横浜で開催する光技術総合展示会「OPIE’17」の「産業用カメラ展」に出展,「新型ノンブラインド デコンボリューション」を紹介する(ブースNo.E-17)。

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