阪大ら,外部刺激で発光色が変化する蛍光材料を開発

出典:Chemical Science

大阪大学と英ダラム大学の国際共同研究グループは,「こする」「加熱する」「溶剤蒸気にさらす」,などのさまざまな外部刺激に応答して発光色が3色に変化する発光メカノクロミズム(MCL)機能を兼ねそろえた,熱活性化遅延蛍光(TADF)材料の開発に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

発光メカノクロミズム(MCL)を示す化合物は,さまざまな外部刺激に応答して発光色が変化することから,化学センサーやメモリ材料としての応用が期待されている。しかし,既存のMCL材料の多くは,分子構造または分子配列の異なる“最も安定な状態”と“準安定な状態”の2つの状態間変化に対応して発光色が変化するので,2色間でのスイッチしかでない。

複数の異なる色を発するMCL(マルチカラーMCL)材料を作り出すことができれば,より高次で複雑なセンシングが可能になると期待できる。しかし,そのためには相互変換可能な複数の準安定状態を生み出す必要がある。固体状態における分子構造,集合状態の予測や制御は容易ではないことから,現在のところ,複数色に変化するMCL材料の例は少なく,明確な分子設計指針も確立されていない。

一方,研究グループは,独自に開発した“ジベンゾフェナジン”と呼ばれる電子アクセプターと,平面性が高く剛直な電子ドナーから構成されるドナー・アクセプター・ドナー分子が,新機構を経るTADFを示すことを明らかにしてきた。TADF機能を損なうことなく,マルチカラーMCL機能を付与できれば,両者の異なるモードに基づく高次なセンサー材料や多機能性発光デバイスの開発が期待できる。しかし,これまで複数色変化を示すTADF材料の報告例はなかった。

こうした背景に基づき,研究グループは,相互変換可能な2種類のコンフォメーションとして存在する“適度に構造が柔軟な”電子ドナーを,電子アクセプター(ジベンゾフェナジン)に2つ連結した分子を設計し,合成した。コンフォメーション変換可能なドナーを2つ導入したことにより,原理的には4種類のコンフォメーションが存在する。理論計算からは,i)これら4種類のコンフォメーションが十分相互変換しうること,およびii)電子構造が大きく異なることが予測された。

実際,合成した化合物にさまざまな外部刺激(「こする」「加熱する」「溶剤蒸気にさらす」)を与えると,発光色が3色に変化するマルチカラーMCLを示すことが明らかとなった。X線構造解析や発光スペクトルなど種々の測定結果から,発光色の異なる固体サンプルにおいては,分子はそれぞれの相に固有のコンフォメーションをとり,そのコンフォメーションが分子内電荷移動(Intramolecular Charge Transfer: ICT)型の発光特性を決定づけていることが示唆された。

また,動的発光スペクトル解析からは,開発した分子材料が,以前開発したものと同様の機構で効率的なTADFを示すことも明らかになった。さらに,今回開発した発光材料を用いて作製した有機ELデバイスの最高外部量子効率(EQE)は,従来の蛍光材料を用いた場合の限界値である5%をはるかに上回る16.8%を達成した。

これまでに報告例のない,高効率TADFを示すマルチカラーMCL材料の開発に成功したことにより,建築物・工場施設・乗り物などに使われている材料や生体内の細胞が置かれている複雑な状態(圧力・温度・酸素濃度など)の変化を,目視で簡単にモニターできる表示デバイスや化学センサー・生体プローブの研究が躍進することが期待されるとしている。

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