理研,睡眠不足でも記憶力が上がることを光遺伝学で発見

理化学研究所(理研),名古屋大学,東京大学らの研究グループは,睡眠不足でも大脳新皮質を再活性化することで記憶力が向上することを光遺伝学的手法により発見した(ニュースリリース)。

睡眠には,起きている間の知覚体験を記憶として定着させる機能がある。感覚情報などの外部からの入力が少ない睡眠時の脳内において,内因的な情報により知覚記憶が定着すると考えられている。しかし,具体的にどの脳回路が知覚記憶の定着に関与するかはわかっていない。

大脳新皮質内の第二運動野(M2)という高次な領域は,第一体性感覚野(S1)という低次な領域と互いにつながり「トップダウン回路」を形成している。理研は2015年,M2からS1への「トップダウン入力」がマウスの皮膚感覚の正常な知覚に関与することを明らかにした。そこで今回,共同研究グループは,トップダウン回路が知覚記憶の定着に関与する可能性を探った。

研究グループは,マウスにおいて,知覚学習直後の深い眠り(ノンレム睡眠)時にトップダウン入力を抑制すると,知覚記憶の定着が妨げられることを見出した。また,M2とS1の神経細胞の活動を記録すると,学習時とノンレム睡眠中に活動が上昇しており,睡眠中に再活性化されることが分かった。

さらに,M2とS1の神経細胞群の活動の同期性は,ノンレム睡眠時に上昇していた。そこで,学習後のノンレム睡眠時にマウス大脳新皮質のM2とS1を同期して光を用いて刺激したところ,マウスは学習した知覚記憶をより長く保持することが分かった。

ヒトや実験動物において,長時間にわたって眠らせない「断眠」を行なうと,記憶の定着が阻害されることが知られている。ところが,学習後のマウスを断眠させながら大脳新皮質のM2とS1を同期して刺激した場合では,通常の睡眠をとったマウスと比べても,より長い間知覚記憶を保持した。

研究グループは,学習直後の断眠時に大脳新皮質を再活性化させることで,睡眠不足でも知覚記憶を向上できることを証明した。知覚記憶の定着は睡眠に特有な機能ではなく,睡眠不足による記憶力の低下は脳刺激によって補えることが分かった。

今後,マウスにおける大脳新皮質の刺激パターンをさらに臨床に適用できるよう改良することで,睡眠障害による記憶障害の治療方法の開発に応用できると期待できるとしている。

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