NHK技研,8K放送に向けた要素技術を発表

NHKは2020年の8Kスーパーハイビジョン(8K)放送開始に備え,撮影から伝送や記録,再生などに関わる要素技術を開発している。今回,5月26日(木)~29日(日)に開催する「技研公開2016」に展示を予定する,新たに開発に成功した技術を発表した。

 

8Kスーパーハイビジョンの10Gb/s級光インターネット回線多チャンネル伝送実験に成功
NHKはKDDIと共同で,8K信号を,10Gb/s級の伝送速度を持つ次世代の光インターネット回線で多チャンネル伝送する実験に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

現在放送されている番組をインターネット経由で伝送するには,信号の形式をインターネットで伝送可能なIPパケットを用いる方式に変換する必要がある。

一方,8K衛星放送で用いるMMT方式の信号は,IP技術をベースとしているため,信号形式の変換が不要で,そのままインターネットで伝送できる。今回,MMT方式の信号を,インターネット経由で多チャンネル伝送するための送信装置と受信機を開発した。

伝送路として現在一般的な1Gb/s級光インターネット回線は,複数人で回線を共用するため,約100Mb/sの伝送速度が必要な8K信号を安定して伝送することは難しい。一方,10Gb/s級の光インターネット回線は,伝送速度に十分余裕があるため多チャンネルの8K信号伝送が可能。

実験では,10チャンネルの8K信号を伝送し,開発した受信機で安定に受信できることを確認した。受信機は,8K衛星放送受信機との共用化も可能であり,今後さらなる検証を進めるとしている。

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4K・8Kスーパーハイビジョンのケーブルテレビ再放送実現に向けて伝送方式の共同評価を開始
NHKは,KDDI,ジュピターテレコム(J:COM),日本デジタル配信(JDS)とともに,衛星による4K・8K放送をケーブルテレビや光ファイバー網で再放送するための伝送方式の評価を開始した(ニュースリリース)。

ケーブルテレビの世帯普及率は50%を超え,4K・8K放送の普及にはケーブルテレビ伝送技術の実用化が重要な課題となっている。NHKは,2018年の衛星による4K・8K実用放送開始に向けて,2015年度までに現行のケーブルテレビ施設をそのまま利用して4K・8K放送を伝送する,複数搬送波伝送方式を開発した。

ケーブルテレビでの複数搬送波伝送方式を利用した4K・8K再放送の実現には,この方式に対応した受信機が必要。NHK,KDDI,J:COM,JDSの4社は,複搬送波伝送方式を復調する新開発のLSIを使用した,この伝送方式の信号を復調する小型の評価用受信装置を試作して共同で評価実験を進める。

8KスーパーハイビジョンFPUを開発~8Kの無線中継を実現~
NHKは,ミリ波とマイクロ波の電波を使った,2種類の8K FPU(Field Pick-up Unit)を開発した(ニュースリリース)。

FPUは,番組素材を屋外から放送局へ伝送する可搬型の無線伝送装置。ニュースの現場やイベント会場など,さまざまな場所から映像や音声を伝送するために使用する。

ミリ波の8K-FPUは42GHz帯の電波を用いる。帯域幅109MHzの広帯域無線伝送技術と水平・垂直の両偏波を使った偏波MIMO技術により,200Mb/s以上の高品質伝送を実現した。

マイクロ波の8K-FPUは,従来のハイビジョン用のFPUと同じ6~7GHz帯を用いる。帯域幅17.5MHzの超多値OFDM伝送技術と偏波MIMO技術により,約200Mb/sの8K信号の長距離伝送を実現した。

8Kスーパーハイビジョンアーカイブ用ホログラムメモリードライブを開発
NHKは8Kなどの大容量コンテンツを安定して長期保存するアーカイブシステムの実現に向け,ホログラムメモリーのプロトタイプドライブを,日立製作所,日立エルジーデータストレージと共同で開発した(ニュースリリース)。

ホログラムメモリーは,記録媒体の厚さ方向にもデータを記録できることに加え,面状の2次元データを記録・再生できるため,従来の光ディスクより大容量かつ高速の記録・再生が可能となる。また,記録・再生が非接触で行なわれるため,長期保存にも向いている。

今回開発したプロトタイプのホログラムメモリードライブでは,データ再生時のエラー原因となる記録媒体の微小なひずみを補償するため,ひずみ補正機構を搭載した。これにより信頼性を向上させることができ,8Kアーカイブ用ホログラムメモリーシステムの実現に大きく近づいた。

開発したホログラムメモリーの記録密度は2.4Tbit/in2,読み出し速度は520Mb/s,記録ディスクサイズはΦ130mm,記録容量は2TB相当となっている。

フレキシブルディスプレイ用有機ELデバイス酸化に強く・長寿命・省電力のOLED開発に成功
NHKは,薄くて軽いフレキシブルディスプレイを実現するため,有機ELデバイス(OLED)の研究開発を進めている。今回,日本触媒と共同で,OLEDの弱点であった,酸素や水分に強く,かつ発光寿命が長い,省電力のOLEDの開発に成功した(ニュースリリース)。

通常のOLEDでは電子注入層にアルカリ金属等の酸化しやすい材料を用いる。この材料は大気中の酸素や水分に触れると変質し,OLEDが発光できなくなるため,ガラス等で強力に封止する必要があった。

一方,フレキシブルディスプレイ用のOLEDは,基板や封止する材料にやわらかいフィルム素材を使用するため,大気中の酸素や水分が浸透しやすいことから,有機EL自体が酸化に強いことが不可欠となる。

NHKは2013年に,酸化に強い構造を持つ材料によるiOLED®を世界に先駆けて開発したが,実用化には酸化を防ぐ以外に,長時間発光しつづける駆動寿命と低電圧で駆動する高い省電力性を合わせて実現することが必要だった。

今回開発したOLEDは,封止のない大気中でも安定に発光するとともに,新しい電子注入層材料と新規添加剤の開発により,長い駆動寿命と,駆動電圧の低減にも成功した。通常のOLEDと同等の駆動寿命と省電力性を有し,かつ酸素や水分に強いOLEDの実現は世界で初めてだとしている。

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