北大,光で駆動する人工分子モーターを作製

北海道大学の研究グループは,光を照射し続けると顕微鏡で見える大きさの運動を自発的に繰り返す分子集合体を,世界で初めて創出した(ニュースリリース)。

分子の構造を変化させることで,より大きな物体を動かしたり輸送したりすることができる「分子モーター」の開発が,医療等への応用を見据え活発となっているが,分子の大きさはとても小さいため,その構造変化を用いて,肉眼でも見えるような大きさの物質を動かすことや,その運動方向を人工的に制御することは難しい。

また,化学反応は一般的に定常状態(平衡状態)で見かけ上停止するので,物質の運動を自律的に繰り返させることは難しい。動的なラチェット機構(分子に方向性を有した運動を発現させる制動機構)を取り入れることで,今回初めて,肉眼で判別できる大きさの運動を繰り返す分子モーターの創出に成功した。

研究では,化学反応としてアゾベンゼン誘導体の光異性化反応を,運動する物質としてこの分子とオレイン酸の混合分子集合体を,それぞれ用いた。この物質に青色光を定常的に照射すると,一定のリズムと振幅で自発的に振動運動を繰り返した。

また,照射する光の強さに比例してそのリズム運動のテンポが変わった。これは,この物質が,外部から供給される光のエネルギーを,力学的な運動に変換する「モーター」として機能していることを示す。

集合体中での双方向の化学反応とそれに伴う形状変化とが,定常的な光照射の下で互いに連動し,繰り返されることで,肉眼でも分かるような大きさの,自発的な力学運動を発現した。さらに,振動運動の結果,集合体が水中で泳ぐような挙動も観察された。

これまでは,外部からのエネルギーにより持続的に決まった運動をするような分子モーターを開発する上で,ラチェット機構が働いた自己組織化,いわば自律的に動きを生み出すような物質を創出することが一番の難題だった。この研究がそれを実現したことで,分子モーターの研究開発はさらに飛躍するとしている。また,この仕組みを解明することで,分子の機能で物質輸送を実現するような分子技術の確立も期待されるとしている。

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