東大,皮膚貼付け可能な極薄柔軟OLEDを開発

JST戦略的創造研究推進事業の一環として,東京大学の研究グループは,超柔軟で極薄の有機LEDを作製し,大気中で安定に動作させることに成功した(ニュースリリース)。

人がデバイスを身に着けるだけでなく,皮膚を含む生体組織の表面を直接電子化する技術が注目されている。これまでに厚みが2㎛の有機トランジスター集積回路などが開発され,人間の皮膚に直接貼りつけて,生体の電気信号計測に応用されてきた。

ところが,有機発光ダイオード(LED)など有機光デバイスは,大気中で安定に動作させることが困難であり,生体に表面に様々な電子的機能を実現する際の制約となっていた。そのため,極薄の有機LEDを大気中で安定に動作するための技術の確立が待ち望まれていた。

作製したディスプレイの基材は生体適合性に優れる高分子フィルムで厚さは1㎛。ディスプレイ全体の厚みは3㎛で,人間の皮膚表皮の約1/10に相当する。赤,緑,青(ピーク波長 609,517,460㎚)の3色の有機LEDの外部量子効率はそれぞれ12.4,13.9,6.3%。10Vで輝度10,000カンデラ/平方メートルを実現した。

この超柔軟有機LEDの特性は,ガラス基板上に作製したデバイスとほぼ同等(その差は最大で5%程度)で,これまでに報告された柔軟性の高い有機LEDの効率1%と比較すると,10倍程度特性が改善した。超薄型であるため人間の表皮のような自由曲面にぴったりと貼り付けることができ,ディスプレイやインディケーターとして使うことができる。

曲率半径100㎛まで曲げても,くしゃくしゃに折り曲げても特性が損なわれない。さらにゴムシートと貼り合わせて,伸縮自在な有機LEDを実現した。予め伸ばしたゴムシートと超柔軟有機LEDを貼り合わせ,表面にしわの構造を意図的につくることによって伸縮性を実現した。その結果,1000回繰り返して60%伸張させても,デバイスの特性は10%しか変化しないことが示された。

超柔軟有機LEDの大気安定動作を実現したのは,水や酸素の透過率の低い保護膜を極薄の高分子基板上に形成する技術。具体的には,有機層として500㎚厚のパリレン膜,無機層として200㎚厚のSiONを積層化した5層の多層膜を成膜した。総厚みが2㎛以下でありながら,水分透過率を5×10-4グラム/平方メートル・日まで,同時に酸素透過率を0.1センチメートル/平方メートル・日まで低減することができた。

第2のポイントは,極薄の高分子基材に損傷を与えずに,透明性電極(ITO)を成膜する技術。高分子基材は,熱やプラズマのような高エネルギープロセスに弱い。そこで,ITOを室温にて極薄高分子基材上に成膜する技術を開発した。特に,ITOを成膜する前に,500㎚厚のポリイミドをコーティングすることによって,表面の平坦性を3.6㎚から0.3㎚まで改善するなどの工夫を凝らした。

これらの新しい2つの技術によって,超柔軟性や極薄膜性を維持しながら,従来は不可能であった極薄有機LEDを大気中で動作させることに成功し,寿命29時間(半減期)を達成した。さらに,有機光検出ダイオード(PD)を極薄高分子基材に形成し,有機LEDと集積化する技術を開発した。

具体的には,2色(緑と赤)の有機LEDを有機PDと集積化した極薄デバイスを指の先端に巻き付けることによって,血中の酸素濃度を反射型の配置で計測した。その結果,ほとんど装着感のない状況で,心拍数や血中酸素濃度(測定範囲は90~99%)を1分以上に渡って安定に計測することに成功した。

他にも,赤色のLEDで7セグメントのディスプレイを作製し,人の手の甲に直接貼り付けて0から9までの数字を表示させたり,1色もしくは2色の有機LEDを使って,実効的な発光面積が約10平方センチメートルのインディケーターを作製し,人のほほに貼り付けて,明るさを変化させたりもした。

研究グループでは,貼るだけで簡単に人の肌をディスプレイにできるようになった結果,ヘルスケア,医療,福祉,スポーツ,ファッションなど多方面への応用が期待されるとしている。

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