九大,有機EL材料の長寿命化に成功

九州大学の研究グループは,熱活性化遅延蛍光(TADF)材料を発光層に含有する有機EL素子において,デバイス構造の最適化により初期劣化を十分に抑制し,連続素子寿命を大幅に向上させることに成功した(ニュースリリース)。

一般の有機EL素子は,陽極と陰極の間に約100nm程度の厚さを有する有機薄膜層から成り,その有機層は,発光機能の中心となる発光層と複数の電荷輸送層薄膜の積層構造から構成されている。そして,電極から電荷輸送層を経て発光層に注入された正孔(ホール)と電子(エレクトロン) が再結合することでEL発光が生じる。

同大では,2012年12月に新しい発光体であるTADF材料の開発に成功し,第一世代の発光材料である蛍光材料や第二世代のリン光材料を凌駕する性能を実現し,ほぼ100%の量子効率で電気を光に変換することが出来るようになったが,実用化のためには有機EL素子の耐久性の向上が求められていた。

緑色発光を示すTADF材料(4CzIPN)を用いた有機EL素子において,従来,LT95(素子の初期発光強度が5%減少するまでの時間)は85時間程度に留まっていたが,今回,有機層中に,有機分子Liq(8-hydroxyquinolinato lithium)を1〜3nmの超薄膜の厚さで挿入することにより,発光層への電子と正孔の注入バランスの向上等を図り,素子寿命を>1300時間(最大16倍)まで伸ばすことに成功した。

これはLiq層を挿入することで,素子中における電荷トラップ濃度が著しく減少したことが起因していると考えられるという。熱刺激電流法の計測から,Liq層を挿入した素子においては,電荷トラップ濃度の著しい減少が確認出来た。この手法は,りん光素子においても同様にLiq層の挿入により長寿命化が可能であることから,ユニバーサルに有機EL素子の耐久性の向上を可能とする技術であることが示された。

解明された新しい素子構造を有機EL素子に適用することで,ディスプレーにおいて要求される初期劣化を大幅に改善することができた。今後は,現在りん光材料でもその実現が難しい,安定かつ高効率な青色TADF素子を含め,各発光色の高耐久化を進めていくとしている。そのために,さらなる新材料開発と素子構造の改善を進めていく。

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