東大,強誘電体薄膜における「負の誘電率」発現を証明

東京大学の研究グループは,原子・電子の動きを予測する原子論的なシミュレーションをスーパーコンピュータ上で行なうことで,デバイス中の原子数個分の厚さの強誘電体薄膜に電圧を加えたときに,分極ドメイン構造が消失することで負の誘電率が発現する機構を初めて明らかにした(ニュースリリース)。

半導体デバイスでは,電極に電子を充電したり放電したりすることでon/offのスイッチや,データの読み書きを行なっている。そして,コンピュータの演算性能やデータ容量の増大は,半導体デバイスの微細加工技術によって支えられている。

小型化しても同じように動作させるためには,電気容量を維持する必要があり,言い換えれば,面積あたりの電気容量を高める必要がある。面積あたりの電気容量は,デバイス中で電気を通さない絶縁体部分の誘電率に比例し,その厚さに概ね反比例するが,現状では,誘電率の向上も薄膜化も物理的な限界に近づいている。

そこで最近,「負の誘電率」という,外から加えた電圧を増幅させる性質を有する物質を利用することで,薄膜化を進めずに電気容量を増やすという提案がなされている。

強誘電体薄膜が負の誘電率を示すことは近年,幾つかの実験から示唆されている。一方,先行研究における連続体モデルの理論解析では,プラス電荷とマイナス電荷のずれ(分 極)が単一方向に揃っている状態であれば負の誘電率が発現するが,実際には分極ドメイン構造が生じた方が安定であり,これによって負の誘電率の発現が抑制されることが示されている。

しかしながら,連続体モデルは,ナノメートルサイズの薄膜での現象の解析には適さない可能性があるという問題点を抱えている。また,デバイス動作で重要な電圧の影響を考慮していないことから、本質的なメカニズムを 捉え切れていない可能性がありました。実際に、かなり大きな負の誘電率効果を示す実験報告を理論的に説明することができていない。

そこで研究グループは,分極ドメインを導入した強誘電体薄膜を含むデバイスモデルに対して,量子力学の基本原理に立脚した第一原理計算を実施し,電圧をかけた際の原子・電子の振る舞いを,東京大学物性研究所のスーパーコンピュータシステムを利用して調べた。

その結果,連続体モデルを用いた先行研究同様,分極ドメイン構造によって負の誘電率効果が抑制されることが確認できた。そして,半導体デバイスでは標準的といえる0.2V程度 の電圧範囲で分極ドメイン構造が消失し,負の誘電率が発現するというメカニズムが初めて明らかになった。

今回の成果は,半導体デバイスの設計や動作のプログラミングの重要な設計指針となることが期待されるという。例えば,今回の成果を踏まえて動作電圧を設定することで,負の誘電率を積極的に活用することが想定されるとしている。

また,電極として異なる金属物質を用いることで,分極ドメインが消失する電圧を制御できることが予測されることから,それを指針とした電極材料の探索が活発化することも期待できるともしている。

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