筑波大,グラファイト表面に無磁場下で現れるランダウ準位を発見

筑波大学は,窒素原子をドーピングしたグラファイトの原子レベルで平坦な表面において,無磁場下にもかかわらず約100テスラもの超高磁場を2層グラフェンに垂直に印加した場合に相当するランダウ準位が出現することを,詳細な計測から明らかにした(ニュースリリース)。

一般に磁場中の荷電粒子は速度と垂直なローレンツ力を受けるために円運動(サイクロトロン運動)をする。量子力学ではこの円運動が量子化され,ランダウ準位という離散的なエネルギー準位に電子状態が分裂する。反磁性材料に外部磁場を印可した場合は,この外部磁場を打ち消す方向にサイクロトロン運動がおこりランダウ準位が形成することが知られている。

一方,単層グラフェンや2層グラフェンに外部磁場を印可した場合,通常の反磁性材料とは異なる法則に従ったランダウ準位が形成することが知られている。この結果,通常は室温での観測が困難な,量子ホール効果と呼ばれる電気抵抗標準を決定することに用いられている現象が,グラフェンの場合は室温でも観測されるなど,様々な特性が報告され注目されている。

最近,このグラフェンのランダウ準位が外部磁場を印可していないにもかかわらず出現することが,研究グループを含めて複数のグループから報告されてる。これまで,このような無磁場下で出現するランダウ準位は,主に歪が誘起する擬磁場(実際には外部から磁場をかけていないのにかかっているように見える磁場)によって理解されてきた。今回,歪が無い平坦な表面でもランダウ準位が生成することを新たに見出した。

研究グループは,窒素をドープしたグラファイト表面の原子構造を走査トンネル顕微鏡(STM)によって観察し,局所的な電子状態を走査トンネル分光(STS)により計測した。この結果,原子レベルで平坦であることがSTMではっきりと示された表面部分において,外部磁場を印可していないにもかかわらず,2層グラフェンに垂直に約100テスラもの磁場を印可した場合の応答に相当するランダウ準位が現れていることがわかった。

また,表面の広い範囲でSTS測定を行った結果,約300か所で類似の複数のピークを持つSTSスペクトルが得られる一方で,他の約1,500か所では過去に観察された,局在化した1つの電子準位ピークのみを持つ場合や,放物線形状のスペクトルやV字型のスペクトルなどが観察され,表面の電子状態が不均一であることも分かった。

観察された2層グラフェンのランダウ準位は既存の歪が誘起する擬磁場のモデルでは説明できないため,研究グループが過去に提唱したドメインモデルと呼ばれる無磁場下でのランダウ準位発生メカニズムで検討をした。まず,走査トンネル顕微鏡の広範囲の詳細な画像解析を行ない,窒素が0.04at%(表面炭素原子の個数に対して0.04%)ドープされていることを明らかにした。

次に,様々な濃度の窒素ドープグラファイトを同じ調製方法で作成してX線光電子分光により解析を行ない,0.04at%の窒素濃度の場合には,ドープされている窒素の約90%が正に帯電しているグラファイト型窒素と呼ばれる窒素種であることを明らかにした。

そして,このグラファイト型窒素の周辺の炭素原子が感じるポテンシャルを第一原理電子状態計算法による計算によって調べた結果,グラファイト型窒素近傍でポテンシャルに大きな違いが認められ,炭素のポテンシャルが窒素に近いほど低くなるような勾配が形成していることがわかった。

すなわち,ドメイン境界に沿ったポテンシャル等高線とドメイン中央に向いたポテンシャル勾配とがそれぞれ形成され,表面にはポテンシャルドメインが存在していることが示された。電子はこのドメインに沿って動き,あたかも磁場中でのサイクロトロン運動のように動きが制御されてランダウ準位が形成したというモデル(ドメインモデル)で,今回の測定結果が理解できることが示されたという。

グラフェンなどのグラファイト系炭素材料は,電気伝導性を有し,軽量で優れた強度をもっているため様々な分野で次世代材料として期待されている。今回,炭素材料の新たな物性が発見されたことにより,バンドギャップの制御などの電子状態制御を利用した電子材料や触媒・電池など環境材料への新しい応用が期待されるとしている。

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