阪大,熱伝導率を制御できるナノ構造を開発

大阪大学は,極小なゲルマニウム(Ge)ナノ結晶を,シリコン(Si)中に結晶方位を揃えて埋め込んだ構造を作製した。この構造では,電流はSi中を流れ,熱伝導はナノ結晶の存在により阻害されるため,高い電気伝導率・低い熱伝導率が同時に実現している(ニュースリリース)。

高性能熱電材料は熱を通しにくく,電気が流れやすいという特徴が要求される。希少・高価で毒性をもちうる元素を用いず,上記性質を満たす材料を開発する方法として,ナノ構造の導入が注目されている。

一般には,ナノ構造導入による熱伝導率低減が性能向上につながることがわかっているが,ナノ構造における熱伝導の機構・制御機構が明らかにされておらず,そのため熱と電気の伝導の同時制御を可能とする最適な熱電材料用ナノ構造は開発されていない。

研究チームは,電気伝導率が比較的高いシリコン(Si)を電気伝導層とし,数㎚サイズの球形ナノ結晶(ナノドット)を熱伝導の阻害物として導入する構造に注目した。この構造では,極小ゲルマニウム(Ge)ナノドットが,超高密度(~2×1012cm-2)にSi上にエピタキシャル成長して導入されている。

その結果,Si/Geの界面に生じる熱抵抗を,~1×10-8 m2KW-1という従来に比べて2-3倍の値まで増大させることに成功した。これは,盛んに研究されてきたSi/Ge材料の界面熱抵抗の最高値となるもの。

その結果,15%という少ない量のGeを利用するだけで,熱伝導率を従来のバルクSiの約1/130倍の~1.2 Wm-1K-1まで低減することに成功した。この値は,少ないGe含有量において,現在産業利用されているSiGeバルク結晶に比べても低い値となっている。

一方,電気はエピタキシャル成長したSi層を主に流れるため,ナノ構造導入による電気伝導率の悪化が抑えられ,バルクSiの約半分程度という高い電気伝導率を得た。これは,高い電気伝導率と低い熱伝導率を同時達成し,高性能Si系熱電材料実現の可能性を示したことを意味する。

また,ナノドットの形状・サイズを調整することで熱の伝導が自在に制御できるようになった。これは,熱伝導に寄与するフォノンの伝導をナノドットが阻害しているためと考えられる。そのナノドットサイズ依存性から,この構造におけるフォノン散乱機構は,光でいうところのレイリー散乱,ミー散乱に相当する散乱機構に由来するもので,ナノドット形状等を考慮することで説明できるという。これは,光のアナロジーでフォノン伝導を制御したことを意味しており学術的に興味深い結果。

従来のボールミリングと焼結によって作製される熱電ナノ材料では,ナノ構造の制御が困難であり,ナノ結晶体によるフォノン散乱の効果は不明瞭のままだった。今回開発した独自技術は,ナノドットの結晶配列構造,寸法,扁平度,配向,密度の精密作製を可能とし,ナノドットの形状によるフォノン散乱効果を実験的に明らかにした。

開発した新規ナノ構造(Geエピタキシャルナノドットを導入したSi構造)は,極小エピタキシャルGeナノドット,エピタキシャルSi層,極薄Si酸化膜層という三つの要素から成り立っている。独自技術である極薄Si酸化膜を用いることで,従来ではなし得なかった極小のエピタキシャルGeナノドットをSi層上にエピタキシャル成長することが可能となる。この構造中において,熱の担体となるフォノンは極小Geナノドットによって散乱され,一方電気の担体となるキャリアはエピタキシャルSi層を伝導する。

今回の結果は,高電気伝導率を有する材料中にエピタキシャル成長した極小のナノドットを導入することで,熱と電気の伝導を同時に制御することに成功したことを示しており,Siに限った結果ではなく,工場・車などの廃熱利用に期待される他の材料を用いた熱電材料開発においても,大幅な性能向上が期待できるという。

パソコンやサーバにおけるLSIから生じる廃熱は,年々莫大なものになっており,これを熱電発電として利用するにはLSIとの調和性を持つSi系熱電材料の開発が必要となる。この研究は,Si中にナノ構造を導入することで,熱電変換性能の向上の可能性を示しており,LSI廃熱用Si系熱電材料の実現のブレークスルーとなりうるものだとしている。

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