産総研,有機トランジスタアレイの性能分布をイメージング

産業技術総合研究所(産総研)は,有機トランジスタの性能分布を光学イメージとして一括して評価できる新たなデバイス評価技術「ゲート変調イメージング法」を開発した(ニュースリリース)。

産総研では,プリンテッドエレクトロニクス技術の実用化を目指す一環として,印刷法を用いたアクティブバックプレーンの製造技術の開発と,これに対応できる高速なデバイス性能評価技術の開発を進めてきた。

アクティブバックプレーンの検査を行なうには,従来の電気測定に基づく検査方法では時間がかかりすぎる。また,液晶ディスプレイに用いられる一括検査法では,ディスプレイのドット抜けの原因となる欠陥素子は検出できるが,輝度むらや表示速度低下に影響する素子性能(移動度,応答速度)の分布評価までは難しかった。

そこで,産総研では,アクティブバックプレーンを高速に一括して性能評価するため,ゲート電圧をかけることにより有機トランジスタに生じる光透過率・反射率の微小変化を可視化する技術の開発を進めてきた。

有機トランジスタにゲート電圧を与え,キャリアを蓄積すると,有機半導体層の光透過率・反射率がごくわずか(1万分の1程度)変化する。

ゲート変調イメージング法では,アクティブバックプレーンに配置された全てのトランジスタに対して,ゲート電圧をかけた状態とかけてない状態の光学イメージをそれぞれ撮影し,両者の差を画像処理して,微小な変化のイメージ(ゲート変調イメージ)を高感度に得る。

ゲート変調イメージには,正常動作するトランジスタだけが現れるため,配線不良や半導体層の欠陥による動作不良個所を一括して特定できる。またゲート変調イメージの信号強度から,ディスプレイの輝度のむらに関わるトランジスタの移動度の分布を一括して調べることができる。さらに,ゲート変調イメージの時間変化から,ディスプレイの表示速度に関わるトランジスタの応答速度の分布を調べることもできる。

今回開発したゲート変調イメージング法の特徴は,アクティブバックプレーンなどの多数のトランジスタの性能分布を一括して検査できることにある。一般的な400万画素のCCDセンサを使って200ppiのアクティブバックプレーンの検査を行う場合,イメージングの視野を1cm2とすると,1回の撮影(10分程度)により6200個のトランジスタを一括して検査できる。

さらに,より高速なセンサを多数(例えば400個)配置し,これらを用いた一括検査を行えば,250万個以上のトランジスタが集積したアクティブバックプレーンの全トランジスタの性能を数分以内に非破壊で検査できるようになる。

研究グループは今後,ゲート変調イメージング技術の高速・高感度化,検査範囲の大面積化を進め,生産ラインへの実装に向けた実用化研究に取り組むとしている。

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