阪大,有機マグネシウム化合物の新触媒機能を解明

大阪大学の研究グループは,身近な元素の一つであるマグネシウムを用いて有機金属化合物を分子設計し,炭素-水素結合活性化を経た触媒的な炭化水素の異性化反応を達成した(ニュースリリース)。

有機化合物中に数多く存在する炭素-水素結合の切断を経た分子変換は,有機化合物中にあらかじめ反応活性の高い置換基を導入する必要がないことから,廃棄物の削減と反応工程の短縮につながる重要な反応。近年の金属触媒開発の研究においては,合成過程で必要となるエネルギーの低減化に加え,環境調和性の高い反応の開発が重要な研究課題であることから,金属触媒による炭素-水素結合の切断は新規反応開発において鍵となる。

有機合成反応において求められる反応の一つに,有機化合物の異性化反応が挙げられる。異性化反応を駆使することで同一の組成からなる様々な有機化合物を得ることが可能になるが,従来は異性化反応を高温で行なう,もしくは,強酸や強塩基条件下にすることでのみ達成されており,温和な条件下での異性化を可能とする触媒の開発が必要となる。しかしながら,異性化反応において必要とする異性体のみを選択的に得ることは困難だった。

研究グループは今回,Grignard試薬として100年以上も前から知られる有機マグネシウム化合物を原料として含窒素二座配位子を加えることで新たな有機金属化合物1を合成し,その分子構造を単結晶X線構造解析により明らかにした。その結果,固体状態では配位子の窒素原子により架橋された二核錯体を形成することが分かった。

得られた化合物1を用いて末端アルキン類の触媒的異性化反応を検討したところ,アレン類への異性化を経て段階的に内部アルキン類が得られる異性化反応が有機マグネシウム化合物においても温和な条件下で進行することを初めて見出した。通常のGrignard試薬ではこれらの異性化反応はほとんど進行しないことから,適切な配位子による分子設計が非常に重要であることが分かる。

さらに,反応機構の解明として異性化が進行しえない末端アルキンである3-フェニル-1-プロピンを用いた反応を行なったところ,末端アルキン2分子,もしくは4分子が結合した新規マグネシウム化合物が生成すること,また,化合物1中の金属-炭素結合と金属-窒素結合の両方が炭素-水素結合の切断に関与していることを見付けた。

今回開発した金属触媒は,非常に安価で入手容易,かつ,毒性も極めて低いマグネシウムを含む有機金属化合物。このような点からスケールアップ合成や生理活性分子合成における最終段階への利用に適している。また,独自に設計した有機配位子が結合するマグネシウム化合物を用いていることから,この成果をもとに様々な分子設計を施すことで異なる異性化反応触媒開発への展開ができる。

さらなる応用として,次世代の半導体材料として有機ELディスプレイなど生活の中の身近な製品への応用が進められている有機半導体材料合成への展開がある。一般に,有機半導体の構造には炭素-炭素不飽和結合が数多く連なった「π共役系構造」を含むことが必須とされている。今回の研究成果を応用することで分子内の望む位置にアレン構造やアルキン構造を導入することが可能となり,有機半導体としての特性の自在制御が期待できるという。

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