東工大,高効率アンモニア合成法のメカニズムを解明

JST戦略的創造研究推進事業において,東京工業大学の研究グループは,以前開発した常圧下で優れたアンモニア合成活性を持つルテニウム担持12CaO・7Al2O3エレクトライドを触媒に用いると,強固な窒素分子の切断が容易になり,アンモニア合成で速度の最も遅い律速段階が窒素分子の解離過程ではなく,窒素-水素結合形成過程となることを見いだした(ニュースリリース)。

アンモニアは,窒素肥料原料として膨大な量が生産されており,最近では燃料電池などのエネルギー源(水素エネルギーキャリア)としても期待が高まっている。これまでどの触媒を用いても,強固な三重結合を持つ窒素分子の切断に高温,高圧の条件が必要であったため,アンモニア合成は多大なエネルギーを消費するプロセスとなっていた。

研究グループは,同位体を用いた窒素交換反応に計算科学を導入することで,この触媒上では窒素分子の切断の活性化エネルギーが既存触媒の半分以下に低減し,その切断反応がアンモニア合成の律速段階ではないことを見いだした。また,速度論解析や水素吸蔵特性注を調べることで,エレクトライド触媒の水素吸蔵特性が反応メカニズムに大きな影響を与え,窒素-水素の結合の形成過程が律速段階であることを示唆した。

具体的には,窒素ガス(14N2,質量数28)と同位体窒素ガス(15N2,質量数30)が混ざったガス中で触媒を加熱すると,触媒表面上で窒素分子の切断反応と再結合反応が起こり,質量数29の窒素分子(14N15N)が生成する。この質量数29の窒素分子の生成速度をもとに,各触媒の窒素切断反応の速度を調べたところ,C12A7エレクトライドにルテニウムを担持した触媒は,他のどのルテニウム触媒よりも低温での窒素切断反応に対する活性が高く,その活性化エネルギーは他の触媒の半分以下となった。

これらのことから,C12A7エレクトライドの強い電子供与能(電子を他に与える能力)によって,ルテニウム触媒の性能が大きく向上し,強固な窒素―窒素三重結合を効率よく切断できることが明らかとなった。さらに,この速度論解析結果と量子化学計算を組み合わせることで,この触媒を用いたアンモニア合成反応の律速段階が窒素の切断過程ではないことが明らかとなった。

今回の成果により,穏和な条件でのアンモニア合成を実現するには,電子注入効果と水素吸蔵効果が重要な役割を果たしていることが明確になった。従って,アンモニア合成プロセスの省エネルギー化に向けた触媒開発の有力な手がかりが得られたことになる。また,この触媒を用いると,安定な窒素分子の解離が速やかに進行することを利用できるため,アミンなど窒素を含む化合物を合成する化学反応への応用展開が期待されるとしている。

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