東大,自己組織化を利用してグラフェンナノリボンを形成

東京大学の研究グループは,無機ナノマテリアルがグラフェン上に自発的に規則正しく整列する(自己組織化する)現象を応用して,単層グラフェンの帯状構造(以下,グラフェンナノリボン)を独自の手法で形成することに成功した(ニュースリリース)。

ナノマテリアルは次世代の素材として期待されている。特に,ナノマテリアルの分子が規則正しく並ぶことで,さらに優れた特性が発揮されることがあるため,何らかのパターンに沿って分子を自発的に整列させる(自己組織化させる)技術の研究開発が積極的に進められている。

今回研究グループは,シアン化金(AuCN)の微細な繊維状構造(ナノワイヤ)を常温下でグラフェンの基板上に形成・整列させることに成功した。グラフェンと金を酸化剤であるペルオキソ二硫酸アンモニウム水溶液中に入れ,室温で17時間静置したところ,グラフェン上にジグザグ状の構造が多数観察された。これは,ナノワイヤがグラフェンの結晶格子に沿って集合・整列することによって形成されている。

一般に,グラフェン上への無機ナノワイヤの整列は,双方の結晶の格子定数の差が約28%以内の場合に起こりうると考えられているが,今回のナノワイヤとグラフェンの格子定数の差は,ナノワイヤの長さ方向で約3.3%,太さ方向で約6%から10%であることが観測により示され,整列が起こりうる範囲内であることが明らかになった。

今回得たナノワイヤの大きさは,平均で長さが約94.7nm,太さが約10.1nm,厚みが約3.29nmだった。また,X線を利用した結晶構造解析や透過型電子顕微鏡を用いた観察等により,ナノワイヤの成分がシアン化金であることが示唆された。

従来の無機ナノワイヤは傷のあるグラフェン上でしか整列させることがでなかったが,ナノワイヤが純粋かつ平滑なグラフェン上に整列していることも明らかにした。ナノワイヤの整列したグラフェン基板が無傷であることを観察したほか,傷のあるグラフェンやアモルファスグラフェン上にはナノワイヤが整列しないことを実験によって確かめた。

このようにして作製したナノワイヤを利用して,グラフェンからなるナノリボンを作ることに成功した。まず,ナノワイヤを覆いとしてグラフェンをエッチングし,ついでナノワイヤを除去することで,グラフェンナノリボンが得られた。このグラフェンナノリボンは幅が約10nm,厚みが1nm以下であり,厚みはわずか炭素原子1個分しかないと示唆される。

これまでに提案されてきたグラフェンナノリボンの作製方法では,アームチェア型とジグザグ型のグラフェンナノリボンの作り分けは実現されていなかったが,今回得られたグラフェンナノリボンはジグザグエッジ方向に整列しており,ジグザグ型のグラフェンナノリボンが形成されている可能性がある。

さらに,電子ビームの照射や加熱でナノワイヤを分解することにより,ナノサイズのシアン化金粒子が連なった鎖状の構造「ゴールドナノパーティクルチェーン」が作製できることも明らかになった。

グラフェンナノリボンは,スピントロニクス用のデバイスの部品として利用できると期待されている。今回開発された手法を用いると,ジグザグ型グラフェンナノリボンの作製効率が大きく上昇すると考えられるという。また,規則正しく配列したゴールドナノパーティクルは,グラフェン結晶の観察ツールや,タンパク質・DNAなどを高い精度で検出するバイオセンサ技術などに応用できる可能性があるとしている。

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