大阪市大,iPS細胞による人工神経の長期有効性と安全性を実証

大阪市立大学の研究グループは,iPS細胞を末梢神経の再生に初めて応用し,iPS細胞と人工神経を組み合わせてマウスの坐骨神経欠損部に移植を行ない,神経再生の長期有効性について世界で初めて明らかにした(ニュースリリース)。

外傷などによって生じる大きな末梢神経欠損に対しては,これまで体の他の部位から正常神経を犠牲にして採取し,欠損部へ移植する自家神経移植しか治療選択肢がなかった。近年,人工神経の開発が進んできているが,神経再生が乏しいといった問題点がある。

今回,人工神経による神経再生を促進させるために,iPS細胞由来の神経前駆細胞を付加した新しい人工神経を開発し,マウス坐骨神経損傷モデルに対する長期有効性とその安全性について初めて明らかにした。

開発した人工神経の管腔壁は二層構造となっており,内層はポリ乳酸とポリカプロラクトン(50: 50)の共重合体スポンジで構成され,細胞が内層面に侵入して生着可能な構造(足場)となっている。また外層はポリ乳酸のマルチファイバーメッシュで構成され,強度を補強する構造となっており,柔軟性にすぐれた人工神経となっている。

マウスiPS細胞から分化誘導した神経前駆細胞(第2世代)を,in vitroで人工神経に充填し,2週間にわたり人工神経ごとインキュベーター内で培養したところ,iPS細胞はシュワン様細胞へと分化して人工神経に生着した。シュワン細胞は,末梢神経再生の促進には欠かせない細胞の一つ。

次に,このiPS細胞由来のシュワン様細胞が生着した人工神経を,マウスの坐骨神経損傷部(長さ5mmの完全欠損)に移植した。移植後4,8,12,24,48週では,iPS細胞を付加した人工神経群は人工神経のみを移植した群に比較して,マウスの下肢運動機能および知覚機能回復が有意に促進した。

組織学的にも移植後24,48週の長期経過において,iPS細胞を付加した人工神経群では有意な神経再生を認めた。またこれらの全ての組織においてiPS細胞移植による腫瘍形成は認められなかった。

今回の研究によって,体の他の部位の正常神経を犠牲にすることなく神経再生が可能となり,iPS細胞の併用によって神経再生がさらに促進した人工神経は,今後,末梢神経欠損に対する新しい神経再生治療法として期待されるとしている。

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