国立天文台ら,巨大ブラックホールの周囲に有機分子が集中して存在することを発見

国立天文台と名古屋大学を中心とする研究グループは,アルマ望遠鏡を用いて渦巻銀河M77の観測を行ない,その中心部に存在する巨大ブラックホールのまわりに有機分子が集中して存在することを初めて明らかにした(ニュースリリース)。

M77の中心には活動銀河核があり,その周囲を爆発的星形成領域が半径3500光年のリング状に取り囲んでいることが知られている(スターバースト・リング)。研究チームは国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡を用いて,既にこの銀河で各種の分子が放つ電波の観測を行なっており,アルマ望遠鏡を用いることでその研究をさらに発展させ,活動銀河核と爆発的星形成領域での化学組成の違いを明らかにすることを狙っていた。

アルマ望遠鏡は,1) 弱い電波も検出できる高い感度,2) 実際のガスの分布を忠実に描き出すことのできる高いイメージング性能,3) 幅広い周波数帯を一度に観測できる能力を併せ持つ,銀河における分子の分析に適した望遠鏡と言える。

アルマ望遠鏡による観測で,M77の活動銀河核のまわりとスターバースト・リングにおける9種類の分子の分布が鮮やかに描き出された。今回の観測ではアルマ望遠鏡完成時のアンテナ数の約1/4にあたる16台程度しか使っていないが,わずか2時間足らずでこれほど多くの分子の分布図を得られた。これほど多くの分子の分布を一度に得られたのは今回が初めて。

今回の観測で,一酸化炭素は主にスターバースト・リングに分布している一方で,シアノアセチレン(HC3N)やアセトニトリル(CH3CN)など5種類の分子は活動銀河核のまわりに集中していることがわかった。また硫化炭素(CS)やメタノール(CH3OH)はスターバースト・リングと活動銀河核のまわりの両方に存在していることがわかった。活動銀河核のまわりに集中していた5種類の分子がM77においてこれほど高い解像度で観測された例はこれまでになかったため,アルマ望遠鏡による今回の観測で初めてその分布が明らかになった。

活動銀河核にある巨大ブラックホールは強大な重力で周囲の物質を引き寄せ,集まってきた物質はブラックホールのまわりに円盤を作る。この円盤は非常に高温になるため,強烈なエックス線や紫外線を放射する。このため,活動銀河核のまわりは有機分子にとっては存在が難しい環境だと考えられていた。しかし今回の観測では,有機分子が活動銀河核のまわりに豊富に存在することがわかった。

研究チームは,活動銀河核のまわりではガスが非常に濃くなっているため,中心部からのエックス線や紫外線がさえぎられることで有機分子が壊されずに残っているのではないかと考えている。一方,爆発的星形成領域でも強い紫外線は存在するが,活動銀河核のまわりに比べてガスの密度が低いため,爆発的星形成領域では有機分子は壊されてしまっているとしている。

これまで活動銀河核の観測研究や理論モデル構築は盛んに行なわれていたが,今回明らかになったような分子に対する遮蔽効果は具体的な研究が始まったばかり。今回の成果は,活動銀河核を取り囲むガスの構造やその温度・密度を理解する重要な一歩となるもの。研究グループは,さらに広い周波数範囲での観測や,より高い解像度での観測によるデータに期待している。

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