理研,マイクロ流体内部に精密な三次元機能素子をレーザで形成する技術を開発

理化学研究所(理研)の研究チームは,2光子造形法によりガラスマイクロ流体構造内部に精密な三次元構造を有する機能素子を形成する技術を開発した (ニュースリリース)。

高速・高感度で分析できるバイオチップは,医療やバイオ化学,環境などの分野で注目されており,マイクロ流体デバイスなど,いくつかの機器は市販されている。研究チームはこれまで,フェムト秒レーザを用い,透明材料であるガラス内部にガラスマイクロ流体構造を作成する技術の開発を行なってきた。

フェムト秒レーザは,レーザ光の集光照射によって,本来は光を透過する透明材料に多光子吸収を誘起する。このときレーザ光の集光点を透明材料内部に設定すれば,材料内部の集光点においてのみ強い吸収を生じさせることができる。集光したレーザを三次元走査することで,透明材料内部の直接三次元加工が可能になる。

しかし,従来の技術では,ガラスマイクロ流体構造の作製時に,内部にいくつかの機能素子を形成できるものの,加工解像度の制約から,マイクロ/ナノスケールのより複雑な三次元構造を有する機能素子の形成は困難だった。そこで研究チームは,従来と同じフェムト秒レーザを用いて,より微小で複雑な三次元構造をガラスマイクロ流体構造内部に形成できる新技術の開発に取り組んだ。

研究チームはまず,作製済みのガラスマイクロ流体構造の中にネガ型レジストと呼ばれるポリマーを流し込んだ。次にフェムト秒レーザを用いて光の波長の数分の一以下の加工パターンが得られる2光子造形を行ない,レーザ光照射領域のポリマー同士だけを連結させ,その他の部分を洗い流すことによって,ガラスマイクロ流体構造内部に三次元ポリマーマイクロ/ナノ構造体を形成した。

具体的には, マイクロレンズとセンターパスユニットが複合した素子を,ガラス内部に埋め込まれたY字型マイクロ流体素子内に形成した。この素子には7個のマイクロレンズがチャネルの幅いっぱいに配列しており,これにより同時に7つの生細胞を検出できた。1つのマイクロレンズに1つ付随するセンターパスユニットは9μm径の穴があいており,細胞のサイズを選別する機能と,細胞をマイクロレンズの中央付近を通過させる機能を兼ね備えている。

細胞の検出は,マイクロチップ下方より白色光を照射し,マイクロレンズによって集光された光の時間的な強度変化を観察することにより行なう。マイクロレンズ上を細胞が通過すると,細胞による光の散乱,吸収,屈折などにより,光の強度が減少するため,これを検出することにより,細胞の検出・計数を行なうことができる。ミドリムシを用いた実験では,サイズの識別によって正常なミドミムシのみを100%検出することに成功した。

研究グループはこの技術が,作製済みのガラスマイクロ流体構造内部に,後から三次元ポリマーのマイクロ/ナノ構造体を形成できることから,「ボトルシップ型フェムト秒レーザ三次元加工技術」と名付けた。2光子造形法は,マイクロ~ナノスケールの複雑かつ多様な三次元構造を形成できるため,1つのバイオチップに多様な機能デバイスを複数集積化することが可能。これにより,高機能なバイオチップの実現が期待できるという。

フェムト秒レーザによるガラス3次元加工技術は,流体構造をガラス中に多層形成することも可能で,それにより3次元多層バイオチップを実現する可能性がある。また,ボトルシップ型フェムト秒レーザ三次元加工は,市販のマイクロ流体デバイスにも適用可能で,市販のバイオチップの高機能化への応用も期待できるとしている。

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