岡山大ら,植物が過剰な光合成から身を守るビタミンCトランスポーターを同定

岡山大学と理化学研究所の共同研究グループは,アスコルビン酸(通称:ビタミンC)を葉緑体へ運ぶ輸送体(トランスポーター)を世界で初めて突き止めた(ニュースリリース)。

植物は強い光にさらされると,光合成による過剰エネルギーが葉緑体に蓄積し,葉やけなどの光障害を引き起こす。そのため,植物には光障害から葉緑体を守る仕組の一つとして,補助色素のキサントフィル類を集光効率の低い物質に変換し,過剰な光エネルギーを熱に変えて散逸させる仕組み(非光化学消光)がある。

ミトコンドリアから葉緑体に運びこまれたビタミンCはその変換の補因子として働く。ビタミンCは,光ストレスを軽減しつつ,活発に光合成を行なう仕組みを支えている。しかし,ミトコンドリアで作られたビタミンCを葉緑体に運ぶトランスポーターはこれまで同定されていなかった。

研究グループは,大腸菌に任意のトランスポーターを大量に発現させ,精製し,人工膜小胞に組み込む独自の輸送活性測定法を開発。AtPHT4;4タンパク質が,ビタミンCトランスポーターであることを突き止めた。このトランスポーターは,光が強く当たる葉の表側の葉緑体に多く発現。葉緑体の入り口にある包膜に局在していることがわかった。この遺伝子発現は光ストレス下で大きく上昇し,効率的にビタミンCを葉緑体に運んでいた。

また,葉緑体のビタミンCトランスポーター遺伝子を欠損したシロイヌナズナ(モデル植物)を解析したところ,葉緑体のビタミンC含量が少なく,光ストレス耐性能が低下していることを確認した。葉緑体にビタミンCが運ばれなくなることで,光ストレスを熱として逃がす非光化学消光が阻害。集光効率の低いキサントフィル類への変換も著しく阻害されていることがわかったた。

これらの研究成果より,ミトコンドリアから葉緑体に運ばれたビタミンCは,光合成により生じた過剰な光エネルギーを熱として逃がす過程の補因子として必須であり,その結果,光ストレス耐性能を獲得していることがわかった。

研究グループは今回の成果によって今後,これらの植物種の葉緑体のビタミンC輸送を制御し,光ストレス下に適応できるストレス耐性能を備えた植物育種への応用が期待できるとしている。環境ストレス耐性能を備えた植物育種の開発が進めば,食糧問題や緑化対策による地球温暖化の解決などが期待される。

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