NIMSら,従来比2桁以上の原子数を扱える第一原理シミュレーションを開発

物質・材料研究機構(NIMS)と英国University College London, London Centre for Nanotechnologyの研究チームは,従来に比べ2桁以上多くの原子数を扱える大規模な第一原理シミュレーション手法の開発に成功した(ニュースリリース)。これにより,これまで不可能だった生体分子やナノ構造物質などの複雑な物質に対する原子・電子シミュレーションが可能となる。

物質は数多くの原子から成り立っており,物質の性質は原子の間に働く力や電子によって決まる。そして,原子同士の力や電子の振る舞いは量子力学によって記述される。量子力学にもとづく第一原理シミュレーションは物質・材料の様々な現象を原子・電子レベルで明らかにできる強力な手法だが,従来の理論では,複雑かつ大規模な数値計算が必要となり,計算できる系のサイズが極めて小さい(通常数百原子程度)という問題があった。

研究チームでは,大規模なシミュレーションを高効率で行なうことができる計算手法の実現を目指してきましたが,今回,極めて高い精度での数値計算を実現しうる新たな技術を導入し,理化学研究所のスーパーコンピュータ「京」や東京大学のスーパーコンピュータ「FX10」を用いる事によって,従来に比べて2桁ほども上まわる3万原子を越える巨大系に対して第一原理シミュレーションを行なうことに成功した。

今回の成功により,将来百万個の原子・電子シミュレーションへの目処が立った。研究グループは今後,従来の方法では計算不可能であった巨大生体分子やナノ構造物質の原子・電子の振る舞い,複雑な界面における欠陥や不純物の制御方法等を理論研究で明らかにしていくことを目指す。これらの研究は今後,創薬や次世代デバイスの開発に役立つ事が期待される。

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