国立環境研究所ら,FTIRを用いて大気中の塩化水素濃度の上昇を確認

国立環境研究所,東北大学を含むベルギー他8カ国のメンバーによる研究グループは,国際的なネットワークを構成して観測を行なっているフーリエ変換型赤外分光計(FTIR)を用いた地上観測および人工衛星観測により,オゾン層破壊をもたらす塩化水素(HCl)濃度が北半球下部成層圏で2007年以降増加していることを発見した(ニュースリリース)。

今回の論文で使用された地上観測データは,大気成分の長期モニタリングのための国際的な観測ネットワークNDACC(Network for the Detection of Atmospheric Composition Change: 大気成分変動観測ネットワーク)に属する観測サイトでFTIRを用いた観測を行なっているグループの中から,世界各地の8地点における観測データを用いて解析された。

オゾン層破壊のような地球規模の大気環境問題の研究には,このような国際的観測ネットワークの協力が非常に有効となる。国立環境研究所と東北大学は,つくばの国立環境研究所内にFTIRを設置し1998年から観測を継続しており,NDACC にも当初から参加している。

FTIRを用いて太陽光に含まれる赤外線を観測することにより,上空の大気中のオゾンやHClなどさまざまな大気成分の濃度を地上から測定することが出来る。今回,両者は日本の研究チームとして研究グループに参加し,北半球中緯度の代表的観測拠点として茨城県つくば市の観測データを用いてHClについての解析を行なってその結果を提供した。

今回のHClの増加の原因は,大気モデルによるシミュレーション結果との比較から,北半球の大気循環の数年程度の短期的な減速であることが分かった。なお、今回発見されたHCl濃度の増加は一時的な現象であり,モントリオール議定書によるフロンの排出規制の効果を否定するものではないことを,科学的検証により確認しているという。

しかし,今回示したような大気循環の数年程度の変動はHClやその他の大気成分に変動をもたらすため,今後の成層圏オゾン層回復の様子を調べる際には,このような大気循環の変動を十分に考慮する必要があるとしている。

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