産総研ら,有機薄膜太陽電池の電荷の移動を妨げるメカニズムを解明

産業技術総合研究所とミシガン大学は,半導体薄膜の電荷の輸送特性やトラップ電荷を評価する手法を開発,この手法により有機薄膜太陽電池の発電層を評価して,電荷の移動を妨げる輸送障壁の起源がドナー分子とアクセプター分子の界面や結晶粒界であることを発見した(ニュースリリース)。

有機薄膜太陽電池は,安価,フレキシブルといった特長があり,変換効率と耐久性の向上に向けた研究開発が世界各地で進められている。通常,有機薄膜太陽電池は,電荷の受け渡しを行なうドナー分子とアクセプター分子が複雑に混ざり合い,発電層内部に自己組織化したナノ構造を形成して高い変換効率が実現する。しかし,発電層内のナノ構造と電荷の輸送との関係はほとんど解明されておらず,変換効率を向上させるための指針を得ることが難しい状況だった。

開発した電荷の輸送特性を評価する手法では,試料に2種類のレーザ光(ポンプ光およびプローブ光)を照射し,それぞれの光によって励起される光電流を測定する。ポンプ光は光励起キャリア(正負の電荷)を生成するための光で,その光子のエネルギーは半導体のバンドギャップよりも大きい。そのため,ポンプ光によって励起される光電流を測定することで電荷の流れやすさが評価できる。

一方,プローブ光は輸送障壁によって捕捉された電荷(トラップ電荷)を輸送レベルにまで引き上げて取り出すための光で,その光子のエネルギーは,半導体のバンドギャップより小さく,輸送障壁の高さより大きくする必要がある。そのため,プローブ光によって励起されるトラップ電流はトラップ電荷の量を反映する。また,これらの電流比から,トラップ電荷の定量値(トラップ電荷密度)が得られ,この値は太陽電池の変換効率を決める重要な指標になる。

研究グループは,評価用の試料としてDTDCTB(ドナー(D)分子)とC60(アクセプター(A)分子)の2種類の分子からなるD-A分子混合膜を作製。混合膜の成分比は,ドナー分子の割合が10%から80%。さらに,C60だけからなる単成分の薄膜を作製し,これらの試料について電荷の輸送特性を評価した。

C60単成分薄膜表面を原子間力顕微鏡像で観察すると,表面にナノサイズの凹凸が多く形成されていることがわかった。また,単成分薄膜の制限視野電子線回折像から,面心立方構造(fcc)のナノ結晶からなること,また,回折線がシャープで結晶性が高いことがわかった。一方,D-A分子混合膜の原子間力顕微鏡像から,表面が比較的平滑であること,また,制限視野電子線回折像では,回折線がぼやけ,結晶性が低いことがわかった。

これらのナノ構造の異なる試料について,電荷の輸送特性を調べ太陽電池特性と比較したところ,ポンプ光励起の光電流はドナー分子の割合が20%で最大となり,トラップ電荷密度はドナー分子の割合が50%で最小になった。

太陽電池特性はドナー分子の割合に対し強く依存し,変換効率はドナー分子の割合50%で最大となった。変換効率とトラップ電荷密度を比較すると,曲線の形が反転し,ちょうど相反関係になっていた。これは,トラップ電荷を低減すると高い変換効率が得られることを示唆している。

トラップ電荷密度がドナー分子の割合に対しU字型の依存性を持つことから,ドナー分子とアクセプター分子の界面が電荷の輸送障壁となると考えられる。アクセプター分子が過剰になると正電荷の移動が妨げられ,逆に,ドナー分子が過剰になると負電荷の移動が妨げられるためだと考えられるとした。

ドナー分子とアクセプター分子が50%ずつの場合には,両者の界面,すなわち輸送障壁が最も少なくなるためトラップ電子密度が最小になる。また,トラップ電荷密度がナノ結晶からなるC60単成分薄膜で最大になったのは,結晶の粒界が輸送障壁として働くためと考えられるという。

研究グループは,今回得られた知見をもとに,電荷の輸送特性に優れる発電層を作製し,太陽電池の変換効率のさらなる向上を目指すとしている。

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