東北大ら,鉄中に溶けた水素を中性子で観測することに成功

東北大学,日本原子力研究開発機構,J-PARCセンターは,中央大学及び愛媛大学との共同研究により,高温高圧力下において鉄中に高濃度に溶けた水素の位置や量を観測することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

水素は鉄などの金属中へある温度,圧力条件で溶け込む。溶けた水素は例えば材料強度を弱めるといった機械的な特性変化(水素脆性)を引き起こすが,その現象の理解には,水素がどこにどのくらい存在するのか,という情報が重要になる。

鉄中に水素は数万気圧という高圧力下でしか高濃度に溶け込むことができない。材料中の水素を観測する方法は限られ,また高温高圧力下での測定は技術的に困難だったので,これまで実験的に観測できなかった。

研究グループは今回,水素を観測することができるJ-PARCの大強度中性子線を利用した。放射光実験で培った高温高圧力下水素化反応技術を基にして中性子回折用の高圧セルを開発し,「超高圧中性子回折装置(PLANET)」に設置されている大型プレス装置を利用して鉄が高温高圧力下で水素化する過程の中性子回折その場観察測定を実施した。

その結果,高温高圧力下の鉄中に高濃度に溶けた水素の位置や量を,実験的に決定することに成功した。これまで,面心立方構造の鉄中においては,鉄原子が作る八面体サイト(隙間)の内部のみに水素が存在すると考えられていたが,高温高圧力下における中性子回折実験により,八面体サイトに加えて鉄原子の作る四面体サイトの内部にも水素が存在することを世界で初めて明らかにした。

研究グループはこの研究の成果によって,鉄中に溶けた水素に関係する特性の変化に対する理解がより一層進むと期待されるとしている。また各種鉄鋼材料の高品質化・高強度化に向けた研究開発や,地球内部のコア(核)に存在する鉄の研究などの進展にも役立つと期待している。

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