国立天文台ら,電波観測として最高周波数となるテラヘルツでの天王星観測に成功

国立天文台らの観測チームはアルマ望遠鏡において,自身が中心となって開発した「バンド10」受信機を使い,これまでに最高となる周波数帯で天王星の観測に成功した(ニュースリリース)。これにより,アルマ望遠鏡は,その観測能力がさらに向上したことになる。

「バンド10」受信機は,観測する電波の周波数を10の周波数帯(バンド)に分け,そのそれぞれに特化した受信機。アルマ望遠鏡には66台のアンテナがあり,1台のアンテナには10種の受信機を搭載することができる。今回の天王星観測に使われたバンド10受信機は,アルマ望遠鏡の受信機群の中でも最も周波数が高い(787〜950GHz:サブミリ波(テラヘルツ))電波を受信することができる。

バンド10の導波管サイズは0.304mm×0.152mmの極小サイズ。髪の毛の太さ2本分ではOMTのような複雑な導波管回路を製作するのは難易度が高すぎるので,バンド10では光学的にワイヤグリッドで偏波分離した後にそれぞれSISミクサで受信する方式を採用している。

一般に,高周波数の電波観測は大気の変動の影響を強く受ける。このため,単純に最高周波数での観測を実行しているだけでは,離れたアンテナで得られた信号を正しく合成することができず,アルマ望遠鏡がひとつの望遠鏡として機能しなくなる。最高周波数帯での観測を実現するために,試験観測チームはふたつの新しい観測手法を確立させた。

ひとつ目は、”band to band transfer” と呼ばれる手法。まずは低い周波数で観測を行ない,そのデータをもとに望遠鏡をチューニングして高周波数の観測を行なう。これを短い間隔で繰り返すことで,大気の変動に影響を受けやすい高周波数観測の弱点を克服する。

もうひとつの手法は,まず広い周波数帯域での観測を行ない,その後目的とする狭い周波数帯に絞って観測を行なうという手法。この方法は,高い周波数帯で観測を行なうアルマ望遠鏡特有のものだが,もうすぐ通常の科学観測にも組み込まれる予定。このふたつの観測手法を組み合わせることで,高周波数観測をより多く確実に実行することが可能になる。

試験観測チームは,このキャンペーンの一環として天王星の新たな画像を取得・公開した。バンド10受信機により,天王星の凍てつく大気(温度-224℃)が放つ電波が捉えられた。天王星以外の太陽系の巨大惑星についても,大気中の異なる高度に存在する雲の温度変化をとらえることが可能になる。

この観測により,アルマ望遠鏡の「高周波数試験観測キャンペーン」は成功裏に終了した。このキャンペーンは,これまで観測に使われていた「バンド9」受信機がカバーする周波数帯以上の観測をめざし,新たな宇宙への窓を確立させることを目的としていた。

試験観測チームは今回の観測成功について,世界の天文学コミュニティに,アルマ望遠鏡の全性能を開放するための重要な一歩となり,アルマ望遠鏡プロジェクト全体から見ても非常に大きな意味を持つとしている。

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