アルマ望遠鏡国際研究チーム, 重力レンズによる衝突銀河の観測に成功

アルマ望遠鏡の国際研究チームは,アルマ望遠鏡とさまざまな地上望遠鏡・宇宙望遠鏡を使うことで,宇宙が現在の半分の年齢だった時に起きた銀河の衝突を,これまでになくはっきりと写しだすことに成功した(ニュースリリース)。

銀河や銀河団のような巨大な構造の巨大な重力によって,その背後からやってくる光の進行方向が曲げられる現象を「重力レンズ」と呼ぶ。この天然のレンズによって背後の天体が拡大されるため,遠くの天体(宇宙が若かったころに存在する天体)を調べることができる。

重力レンズ効果を利用するには,対象となる遠方の天体と手前のレンズ天体と観測者が一直線に並んでいる必要があり,偶然3者が一直線に並ぶ確率は低い。しかし,遠赤外線や電波の観測では,こうした重力レンズ天体がたくさん見つかっている。

H-ATLAS J142935.3-002836 (あるいは単にH1429-0028)は,ハーシェル赤外線宇宙望遠鏡による大規模観測計画によって発見された,重力レンズ効果を受けた天体。可視光では非常に暗いが,遠赤外線ではこれまで発見された中で最も明るい重力レンズ天体の一つ。しかも,この天体は宇宙の年齢が現在の半分だった頃に存在している。

国際研究チームは,地上あるいは宇宙にある最高性能の望遠鏡群(ハッブル宇宙望遠鏡,アルマ望遠鏡,ケック天文台,カール・ジャンスキーVLA等)を使ってこの天体を詳しく観測した。異なる波長の観測により異なる姿が捉えられるため,データを比較することでこの天体の本質に迫ることができる。

ハッブル宇宙望遠鏡とケック天文台で得られた画像には,手前の銀河のまわりにリング状に広がる天体の姿が写っていた。奥の銀河からやってくる光が重力レンズによって曲げられたために,歪んだ姿となった。しかも,重力レンズの原因となっている手前の銀河は,真横を向いた円盤銀河であることがわかった。

また,これらの望遠鏡のデータを合わせた結果,奥に見えている天体はまさに衝突しつつある2つの銀河であることが分かった。

さらに,奥に見えている天体が年間数百個もの星を作り出していることもわかった。また衝突しあっているふたつの銀河のうちのひとつでは,ガスが回転していることがわかった。これは,この銀河が衝突前には天の川銀河のような円盤銀河であったことを示すもの。

まさに衝突しつつある銀河というのは,例えば地球から7000万光年のところにある触角銀河のようなもの。触角銀河は,円盤構造を持つ銀河どうしがまさに衝突しつつある姿。触角銀河では毎年太陽数十個分の星しか作られていないが,H1429-0028では毎年太陽400個分に相当するガスが星になっているという,極めて活発な星形成が起きているという。

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