国立天文台ら,生命の素材となる物質を天体に発見

国立天文台と総合研究大学院大学の研究チームは,生命に必須なアミノ酸であるグリシンの前段階物質と考えられるメチルアミンを,国立天文台野辺山観測所の45m大型電波望遠鏡によって複数の星形成領域において検出することに成功した(ニュースリリース)。

1995年の最初の発見以来,太陽系外惑星が1800個以上見つかり,その中には地球に似た惑星も見つかってきた。このため,他の惑星にも生命が存在するかもしれないとの期待が高まっており,日本も参画するアルマ望遠鏡やTMT望遠鏡でも,宇宙生命についての発見が,大きな研究テーマの一つとされている。

今日では,宇宙空間に希薄なガス雲(星間分子雲)が存在し,その中に分子(星間分子)が多数存在することが明らかになっており,1970年代の終わりから,最も簡単なアミノ酸であるグリシン(NH2CH2COOH)を星間分子雲で見つけようという複数の試みがあったが,いずれも成功に至っていない。

そこで研究グループでは,グリシンそのものではなく,その前段階物質であるメチルアミン(CH3NH2)やさらに前段階であるメチレンイミン(CH2NH)に着目した。これはメチルアミンと星間分子雲に豊富に存在する二酸化炭素(CO2)が反応することによりグリシンが生成するので,グリシンの前段階物質が豊富な天体にはグリシンも豊富にあることが期待されるため。しかし,星間分子雲中のメチルアミンやメチレンイミンについては,1970年代に発見されたものの,その後は誰もこれらの前段階物質に着目していなかった。

一方,NASAが打ち上げたスターダスト(StarDust)計画によって彗星からグリシンが見つかっている。グリシンが星間分子雲中で生成することを間接的に示すことは,「星間分子雲中のアミノ酸→星や惑星形成と同時に彗星や隕石に取り込まれる→惑星に運搬される→惑星表面でさらに複雑化→最初の生命」,という宇宙と生命との深い繋がりの可能性を示すことになる。

観測は,2014年3月と5月に,国立天文台野辺山宇宙電波観測所にある45m大型電波望遠鏡を用いて,周波数78~100GHzの範囲で実行された。その結果,研究チームが既に見出していたメチレンイミン(CH2NH)が豊富な天体中の2つであるG10.47+0.03とNGC6334Fにおいてグリシンの前段階物質であるメチルアミン(CH3NH2)を見出すことができた。これらの2天体では,今まさに,星が誕生しており,その現場でグリシンの前段階物質が存在することが明らかになった。

今回見出したメチルアミンの存在量を求めたところ,これまでに報告されていた銀河系中心でのメチルアミンの存在量よりも約10倍も多く,知られている中で最もメチルアミンが多い天体であることが分かった。

これまでの研究により,メチレンイミン(CH2NH)は,星間分子雲中に豊富に存在する青酸(HCN)に水素(H)が付加して生成されることが示唆されている。今回の研究結果を総合すると,星間分子雲でのグリシンの生成経路として,「HCNへの水素(H)付加によりメチレンイミン(CH2NH)が生成,さらに水素が付加することによりメチルアミン(CH3NH2)に変化し,これが星間分子雲に豊富する二酸化炭素(CO2)と反応してグリシン(NH2CH2COOH)となる」ことが強く示唆される。

今回得たメチルアミン(CH3NH2)の存在量を,星間分子の存在量を理論的に予測するモデルと比較してみたところ,両者が比較的良い一致をみることが分かった。このモデルによって予測されるグリシンの存在量は,アルマ望遠鏡を用いることにより検出可能。

研究チームによれば,今回の研究結果に基づいてアルマ望遠鏡を用いた観測を実施することにより,過去40年近く成功できなかった星間分子雲のアミノ酸を世界で初めて発見できる可能性が高まったとしている。星間分子雲でアミノ酸が実際に発見されれば,宇宙に豊富に存在する単純な物質が徐々に複雑化する過程を経て,やがて,惑星上で生命が発生する,という宇宙的視野に立ったストーリーを描くことができる。

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