東大,分子吸着過程の連続スナップショット撮影に成功

東京大学の研究グループは,多孔性分子結晶の細孔(ナノチャネル)壁面に分子が吸着する過程について,X線回折測定によって連続的なスナップショットを撮影することにより,分子の吸着という動的なプロセスを高精度に可視化することに成功した(ニュースリリース)。

分子吸着の時間的な変化を4枚のスナップショットによって観察したところ,段階的なプロセスを経て最終的な吸着状態に達することを初めて明らかにした。X線回折測定を用いたこのような測定手法は,これまでは分子構造変化や分子変換反応の中間体の解析に限られていたが,分子自体の大きな移動を伴う分子吸着の過程を明らかにする手法としては用いられてこなかった。

研究グループは,近年注目を集めている多孔性分子結晶を分析対象とすることにより,X線回折測定を用いた分子吸着過程のスナップショット観察に挑戦した。多孔性分子結晶は構成分子が周期的に並んだ単結晶であることから,X線回折測定に適している。

また,多孔性分子結晶はナノメートルサイズの細孔(ナノチャネル)を結晶内に有することから,ナノチャネル内にさまざまな分子を取り込むことができる。加えて,研究グループが独自に開発した多孔性分子結晶では,ナノチャネル壁面に環状金属錯体によって形成された複数の異なる分子の結合ポケットが存在するため,ナノチャネル壁面に分子が自発的に吸着する過程(一種の自己組織化)を追跡する目的に適している。

研究では,開発した多孔性分子結晶のナノチャネル壁面に分子が吸着を開始してから終了までの間に4回のX線回折測定を経時的に行なった。多孔性分子結晶のナノチャネル内に分子が取り込まれた直後に結晶を–180度まで冷却して撮影したところ,3回目の測定で最終的な吸着位置にも分子が吸着し始めることが分かった。4回目の測定を行なうと,隣の結合部位には分子はいなくなり,最終的な吸着位置にのみ分子が吸着していた。

研究グループは,直接観察法について,自己組織化という動的プロセスを観察できる分析手法として,分析化学のみならず有機化学や無機化学,超分子化学,生物化学,材料科学などの広い分野に大きな波及効果をもたらすと予想する。

さらに今回の結果は,分子吸着という動的プロセスの新しい分析手法として大きな波及効果をもたらし,多孔性材料を用いた化学製品の分離プロセスや触媒合成プロセスの効率化と選択性向上に大きく貢献することが期待されるとしている。

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