産総研,二酸化炭素を資源化するニッケル錯体触媒を開発

産業技術総合研究所(産総研)は,逆水性ガスシフト反応(二酸化炭素を水素化し化学原料として有用な一酸化炭素に変換する反応)の触媒活性を持つニッケル錯体触媒を開発した(ニュースリリース)。

従来,この反応の触媒にはルテニウムなどの貴金属が必須だったが,分子内に3つの結合箇所を持つピンサー型配位子を用いて,非貴金属であるニッケルでも反応を進行させることに成功した。

一酸化炭素は二酸化炭素に比べて反応性が高く,多種多様な化学品の原料として用いられているが,高い毒性を持っている。そのため,自社で一酸化炭素利用プロセスを保有できる企業は限られている。

既に,産総研では,ルテニウム錯体を用いて二酸化炭素を一酸化炭素に変換し,その場で次の反応に用いることで,従来一酸化炭素を用いて合成していたプロセスを二酸化炭素で代替する技術を開発しているが,触媒コストの高さが普及を阻んでいた。

従来,ニッケル錯体を用いた二酸化炭素の水素化で得られる生成物はギ酸とその誘導体に限られていた。固体触媒では,非貴金属である銅や鉄などが逆水性ガスシフト反応の触媒となるが,200~300 ℃程度の高温が必要。一方,錯体触媒で逆水性ガスシフト反応に触媒活性を持つものは,ルテニウムなどの貴金属の錯体に限られていた。

今回の技術は,分子内に二つのリン原子と一つの窒素原子を持つピンサー型配位子を用いたニッケル錯体を触媒として逆水性ガスシフト反応を行なうもの。一般的に錯体触媒は固体触媒よりも温和な条件で触媒作用を示すが,ニッケル錯体触媒も140~160 ℃程度の反応温度で逆水性ガスシフト反応を進行させることができる。

耐圧容器中でエチレングリコールにニッケル錯体を溶解させ,二酸化炭素(2 MPa)と水素(6 MPa)を圧入し,160 ℃で5時間反応を行なったところ,ニッケル錯体一分子に対して22.1倍量の一酸化炭素が反応ガス中に生成していた。反応溶液中にはギ酸化合物の生成が認められないことから,ニッケル錯体触媒により二酸化炭素が直接一酸化炭素に変換されたと考えられるという。

ニッケル錯体の配位子の構造は,触媒活性の重要なファクターで,配位子中の窒素の部分を炭素に置き換えると一酸化炭素は全く生成せず,二酸化炭素のみが回収される。また,配位子中のフェニル基をブチル基に置き換えても,一酸化炭素は全く生成しない。

今回開発した技術により,貴金属を用いずに温和な条件で二酸化炭素を一酸化炭素に変換できるようになった。ニッケルはルテニウムに比べてグラム単価が100分の1以下であるため,二酸化炭素から一酸化炭素への変換コストを大幅に低減できると期待できるという。

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