東工大,光と熱に強いラジカル開始剤の作製に成功

東京工業大学の研究グループは,ポリマー材料や有機化合物の合成に幅広く使用されるラジカル開始剤を,分子カプセルに内包することで,光照射や加熱に対して顕著に安定化されることを明らかにした(ニュースリリース)。また,カプセル内で安定化された開始剤を,通常のポリマー合成に使うことにも成功した。

アゾ系のラジカル開始剤のAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)およびその誘導体は,光照射や加熱によりラジカル種を容易に生成するため,様々なポリマー材料や有機化合物の合成に利用されている。しかしながら,光と熱に対して反応性が高く,取扱いによっては爆発の危険もあるため,冷暗所で保存する必要があった。

研究グループは,このラジカル開始剤を,研究グループが3年前に開発した複数のアントラセン環を含む球状構造体の分子カプセルに内包させた。この構造体は定量的に合成可能で,1ナノメートルの内部空間を有しており,球状のフラーレンC60や平面状のピレンなどが強く内包される特徴がある。

AIBNとカプセル1を1:1の比で水系溶媒に加え,室温で1分程度撹拌すると,AIBNは疎水性相互作用を駆動力として,自発的かつ定量的に分子カプセルに内包された。照射実験では,単独のAIBNは有機溶媒中,360nmの紫外光照射で完全に分解したが,カプセルに内包されたAIBNは同条件下で380倍以上も光安定化されることが明らかとなった。

さらに,内包された開始剤は,有機溶媒中でカプセル内から自発的に放出され,モノマー共存下で光照射または加熱により,ラジカル種の発生を経由して効率良くポリマーが生成した。

この研究成果は,分子カプセルによる“完全な閉じ込め”が鍵であり,これにより汎用的な高活性試薬を机の上で保管し,安全に使用することが可能となった。研究グループは今後,分子カプセルによる様々な高活性試薬や反応中間体の保管と利用への挑戦が期待できるとしている。

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