OIST,「辛抱強さ」はセロトニンによって促進されることを光遺伝学で発見

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究グループは,光によって脳内の特定の神経細胞の活動を正確なタイミングで制御する「光遺伝学」の手法を用いて「辛抱強さ」の脳内メカニズムを調べたところ,マウスが報酬を待つ間にセロトニン神経活動を増加させることで,辛抱強さが促進されることを明らかにした(ニュースリリース)。

研究チームは光遺伝学の技術を用いて神経修飾物質のセロトニンを持つ神経細胞のみを選択的に刺激することができる遺伝子改変マウスを作成し,将来の報酬を予測しながら待機している状況下でセロトニン神経活動を増加させると行動にどのような影響が見られるかを調べた。この技術は脳内の特定部位に光照射を行なうことで神経活動を操作するもので,光のON,OFFにより神経活動のタイミングを正確にコントロールすることができる。

実験では5匹のマウスに,実験箱内部の壁面に設置された小窓にノーズポーク(鼻先を入れる)した状態で数秒間じっと待つことでエサを獲得できる課題を学習させた。そしてエサまでの待ち時間をランダムに3秒,6秒,9秒,無限大(エサなし)と変化させ,それぞれの半数の試行で背側縫線核のセロトニン神経細胞を光で刺激した。

するとマウスは3秒と6秒のノーズポークは簡単にできるものの,9秒だと待ちきれずに鼻先を出してしまい,報酬獲得に失敗する回数が増えた。しかしマウスがノーズポークする間に光刺激でセロトニン神経活動を増加させると,9秒でもノーズポークを続けることができるようになり,失敗回数が有意に減少した。

さらに持ち時間無限大試行(エサなし)では,通常は平均12秒間ノーズポークを続けてあきらめたのが,光刺激でセロトニン神経活動を増加させると,平均17.5秒間と45%も延びた。一方でノーズポーク中以外のタイミングでセロトニン神経活動を増加させてもノーズポーク時間が延長することはなく,動きが止まる,などの別の影響も見られなかった。

これらの結果から,将来的に得られることが予測される報酬をじっと待つとき,セロトニン神経活動が増加することで辛抱強さが促進されることが明らかになった。またこの実験で光照射のON,OFFにより神経活動のタイミングを正確にコントロールできる技術を用いたことで,脳内のセロトニンレベルの持続的な上昇というよりも,報酬を待つそのタイミングにセロトニン神経活動が増加することが辛抱強さを促進させることも分かった。

セロトニン神経は脳内の広い範囲に投射しており,睡眠や呼吸などの生理機能から認知,精神機能に至るまで多様な機能の中で役割を担う神経修飾物質。しかし,報酬と罰に関するセロトニンの役割は諸説ある。今回の実験でセロトニン神経活動が予想以上にダイナミックな機能を有し,報酬待機における辛抱強さの調節を行なっていることが明らかになった。

研究グループは,セロトニンの役割を詳しく調べることで,衝動性を伴う病的症状や行動の基盤となる神経回路の理解につながることが期待できるとしている。また,より人間的な判断が可能なロボットやプログラムの開発など工学的な応用へも可能性が広がると予測する。

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