広島大,高温超伝導体機構の解明に繋がる新物質の合成に成功

広島大学の研究チームは,Cu2+と炭酸イオン(CO32-)を交互に配列させることで,高温超伝導体機構の解明に繋がるCu-O系分子性スピンラダー化合物の合成に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

超伝導体の一種として,高い超伝導転移温度(High-Tc)を有する銅酸化物高温超伝導体(高温超伝導体)がある。銅酸化物高温超伝導体の中には,液体窒素温度以上のTcを有するものも数多くあり,現在,環境材料やリニアモーターカーなどへの展開が期待されている。

しかし,高温超伝導体の発現機構は未だ完全には解明されていないが,近年,高温超伝導体の母体と似通った物理的性質(物性)をもつスピンラダー物質が提案された。この物質は,高温超伝導体内で超伝導発現の中心的な役割を果たすCu-O2シートを単純化した梯子(ラダー)状の構造を有しており,キャリアドーピングによる超伝導相の出現が理論的に指摘されている。

したがって,スピンラダーの物性が解明されれば,これが高温超伝導体機構の解明に繋がると期待されている。現在までに多くのスピンラダー物質が開発されたが,高温超伝導体と相関の深いCu-O系スピンラダーは無機物で3種類の開発,分子性化合物では未だ報告されていない。

これまでに開発された3種類の無機物のCu-O系スピンラダーの一つにおいて,実際に超伝導相が確認されたことから,Cu-O系スピンラダーの重要性がうかがえる。しかし,これら無機物スピンラダーは梯子構造が隣の梯子構造と接しているために,厳密な意味でスピンラダーといえるかどうかの議論があり,モデル物質として取り扱う上で,多くの問題があった。

こうした理由から,理想的なスピンラダーのモデル物質と成り得る重要な性質として,「高温超伝導体と相関の深いCu-O系物質であること」「梯子構造間が十分に離れており,磁気的に孤立している必要があること」の2つの条件が挙げられる。

今回合成物質は,2つのCu2+と1つのCO32-を交互に積層させることで,ラダー骨格を生成している。ラダー構造内ではCu2+間をCO32-イオンの酸素原子が架橋することで,梯子の桁(けた),足(あし)方向共にCu-O-Cuから構成された。

一方,ラダー間にはカウンターアニオン(ClO4)が存在するために,各々のラダー構造間の磁気的な相互作用は完全に切断された。実際,この物質の磁化率曲線は磁気的に孤立したスピンラダーモデルで良く再現された。

したがって,今回得られた化合物は,純粋なスピンラダーを研究する上で非常に良いモデル物質となり得ると考えられる。また,この化合物の物性解明が進めば,未だ明らかになっていない銅酸化物高温超伝導体の機構解明に繋がることが期待できるとしている。

研究グループは今後,開発した物質のより詳細な物性測定を行ない,基底状態や磁気構造の解明を進める。また,スピンラダー物質はキャリアドーピングによる超伝導相の出現が理論的に指摘されていることから,本系へのキャリアドーピングを目指す。これにより,新種の超伝導体である分子性スピンラダー超伝導体の合成を目標にするとしている。

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