東大ら,シャッター速度1/4.37兆秒の超々高速撮影に成功

東京大学,慶應義塾大学らの研究グループは,様々な色の光を用いて動的現象の像を空間的にばらけさせ,そのあとで時間的に動画として再構成するという,新たな動作原理により,4.37兆分の1秒のフレームレートにて,超高速な現象を一度の撮影で連続的に取得することに成功した(ニュースリリース)。

この手法は Sequentially Timed All-optical Mapping Photography(STAMP)と呼ばれ,スタンプが押されるように,撮影対象の像が全光学的プロセスを通じて次々とイメージセンサに入力され,取得される。

現在アト秒(10-18秒)が測定できる程度の光パルスが得られているにもかかわらず,既存の高速度カメラではナノ秒(10-9秒)が測定できる程度のものしか得られていない。高速度カメラは多くの技術的問題から,動作速度が頭打ちの状態を迎えている。

一方で,より高速な現象の疑似的動画を得る手法としてポンプ・プローブ法が用いられている。しかしながら,この手法は動画をつくるために繰り返し撮影が必要であり,一度きりしか起こらない非反復的な現象を捉えることが原理的に不可能だった。

今回,原理6枚の連続画を取得するシステムで実証を行なった。撮影はまず,超短パルス光源から発せられた広帯域の超短パルス光が,時間写像装置にて波長に応じて時間的に引き伸ばされ,波形が整えられる。それぞれのパルス列(STAMP照明光)は観察対象に次々に照射され,像情報を取得してゆく。これら像情報を有したSTAMP照明光が,空間写像装置にて今度は波長に応じて空間的に分離される。

この空間写像装置のため,高波長分解能・高透過効率・リアルタイム性を有する新しいマルチスペクトラルイメージング法も合わせて開発,多フレームかつ良好な画質を実現することができた。

像情報を失うことなく空間的に分離されたSTAMP照明光は,露光状態に保たれたイメージセンサのそれぞれ異なる位置に入力される。このとき,どの時間がどの波長に対応しているのか,どの空間がどの波長に対応しているのかわかるため,波長を介してそれぞれの空間に飛び込んだ画像がどの時間に対応するのか知ることができる。

これらの情報から,取得した画像を動画として再構成することで,完全なシングルショットでの超高速撮影が実現される。STAMPカメラは,通常のビデオカメラのように何千枚・何万枚といったフレーム数を得ることは困難だが,代わりに極めて高いフレームレートでの観察ができる。また,極めて低い光エネルギーで撮影を行なうため,観察が対象に与える影響を大幅に低減できる。

開発した撮影システムを用いて,まずガラスでのフェムト秒レーザアブレーションの初期過程をピコ秒の時間スケールにて観察した。撮影では,光のエネルギーが急激にガラス表面に加えられ,プラズマ状態のプルームが成長していく様子が65.4Gfps(15.3ピコ秒に1フレーム)という撮影速度にて捉えられた。

続いて,結晶中のフォノン・ポラリトンのダイナミクスをフェムト秒の時間スケールにて観察した。撮影では,線集光されたレーザ光が複雑な電子応答と格子振動を誘起し,次第にフォノンパルスが形成される様子が1.23Tfpsおよび4.37Tfps(それぞれ812フェムト秒,229フェムト秒に1フレーム)という撮影速度にて捉えられた。

また,そのパルスが光速の約6分の1という速度で伝わっていく様子を微視的な視野で観察した。これらの超高速ダイナミクスを一度の撮影で連続的に捉えたのは世界で初めてのこと。この撮影システムは4.37Tfpsより速いフレームレートも容易に実現できる。また,フレーム数も,空間写像装置の改良によりもっと多くの枚数を取得することが可能。同様に画面解像度も使用しているイメージセンサの最適化により更に向上させることができるという。

研究グループはこのカメラが,これまで観察ができなかった超高速現象や,放射光や加速器などまだ安定性が十分ではない光源を用いた観察においても大きな効力を発揮すると考えており,分野を問わず多くの領域にて先端的基礎研究を支える強力なツールとして貢献してゆくと期待している。

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