京大,fMRIを用いて「嘘つき」と「正直者」の脳の活動の違いを解明

京都大学は,脳のはたらきの個人差に着目して,人間の正直さ・不正直さを規定する脳のメカニズムを調べた(ニュースリリース)。「嘘つき」や「正直者」といった言葉が示すように,人間が嘘をつくかどうかには大きな個人差がある。しかし,どうしてそのような個人差が存在するのかは,まだ十分にわかっていなかった。

研究では,機能的磁気共鳴画像法(fMRI)によって脳活動を間接的に測定する方法を用いて,心理学的な実験を行なった。具体的には,実験参加者は,fMRI による脳活動の撮像中に,①金銭報酬遅延課題,②コイントス課題,の2種類の課題を行なった。

①では,参加者は成功すると報酬(お金)をもらえるをゲームを行なった。この時の脳の状態を解析すると,報酬を期待する際の脳活動,特に報酬情報の処理に重要な側坐核と呼ばれる領域の活動を特定することができる。②では,参加者はコイントスの裏表を予測し,正解すると報酬をもらえ,失敗すると報酬を取られるというゲームを行なった。ここでは,A.コイントスの前に予測する B.コイントスの後に予測する2種類のパターンを行なった。

このとき,B.では予測を申告する前にコインの裏表を確認できるような機会をわざとつくり,申告する予測が偶然の域を超える(嘘をつく)かどうかを調べた。

その結果,報酬を期待する際の「側坐核」の活動が高い人ほど,コイントス課題において嘘をつく割合が高いことがわかった。つまり,脳のレベルでの報酬への反応性が高い人ほど,お金への欲求が強く,結果として嘘をついてしまった可能性がある。

さらに,金銭報酬遅延課題において測定した,側坐核の活動が高い人ほど,コイントス課題で嘘をつかずに正直な振る舞いをする際に,背外側前頭前野と呼ばれる領域の活動が高いこともわかった。背外側前頭前野は,理性的な判断や行動の制御に重要な領域と考えられている。このことは,お金への誘惑に打ち勝って正直に振る舞うためには,報酬への反応性が高い人ほど,より強い前頭前野による制御が必要という可能性を示唆している。

今回の研究は,報酬への脳のレベルでの反応,つまり側坐核の活動の個人差によって,人間の正直さ・不正直さがある程度決まることを示した,世界的にも初の知見。研究グループはこの成果について,人間の「道徳性」を科学的に理解するための,重要な一歩であるとしている。

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