奈良県立医科大,においが神経細胞どうしのつながりを促進することを発見

奈良県立医科大学の研究グループは,匂いの情報処理を行っている神経細胞(ニューロン)が発達する際に,NPAS4(エヌパス4)というタンパク質が,匂い刺激の強さに応じて産生されることにより,神経細胞どうしの接続(シナプス:スパインと同義語)の数を調節していることを,マウスを使った実験で突き止めた(ニュースリリース)。

この研究成果は,再生医療にもつながるもので,今後,脳卒中などによって神経細胞が死滅した際に,神経細胞を損傷部位に移植することで神経障害を回復させるというような治療法への応用が期待される。

私達の脳の中では,神経細胞どうしが複雑につながり合って働いている。匂いの情報を処理する嗅球における介在ニューロンは,匂い刺激によって活性化される神経細胞ほど,より多くの神経細胞とシナプスを介して接続して,情報伝達の効率を上げている。

今回研究グループは,NPAS4を通常より過剰に発現させたマウスの神経細胞では,シナプスの数が増加していることを見出した。逆に,NPAS4の機能を失った神経細胞では,匂い刺激の強弱に関係なく,シナプスの数が著しく減少していることを見出した。

さらに生化学的に詳しく調べると,NPAS4の機能を失った嗅球介在ニューロンでは,シナプスを形成するタンパク質であるダブルコルチン(DCX)のユビキチン化が促進され,分解されているので,結果的にシナプスの数が減少することがわかった。従って,嗅球介在ニューロンでは,NPAS4タンパク質の量に応じてシナプスの数を調節することにより,脳内情報処理の効率化を行なっていると考えられる。

嗅球介在ニューロンの幹細胞は,マウスのみならずヒトにおいても例外的に大人になっても新しく生まれて,神経回路を作り続けている神経細胞。今回の研究成果は,脳卒中などによって神経細胞が死滅した際に,新しい神経細胞を損傷部位に移植して新しい回路を作ることで,神経障害を回復させるという再生医療への応用にもつながると期待されるとしている。

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