北大,可視光を用いて空気中の窒素をアンモニアに変換する人工光合成を開発

北海道大学の研究グループは,紫外,可視,近赤外領域の広い波長域で光エネルギーを電気エネルギーに変換(光電変換)できる酸化物半導体基板に金ナノ微粒子を配置した光電極を作製し,窒素雰囲気下で可視光照射することにより,アンモニアを合成することに成功した(ニュースリリース)。

アンモニアは,化学エネルギーの中でも燃焼や爆発の危険性が低く,また比較的容易に液化できることから,次世代のエネルギーキャリアとして期待されている。しかし現在,アンモニアは高温高圧のハーバー・ボッシュ法で工業的に製造されており,世界のエネルギー消費の1%がここに使用されている。

従って,アンモニアをエネルギーキャリアとして有効に用いるためには,従来の合成法とは根本的に異なる,低エネルギーでの合成法の開発が待たれていた。

一方,半導体光触媒として現在広く用いられている酸化チタンは,光をエネルギー源として化学反応を起こすが,高い反応性を得るためには太陽光中に僅か5%程度しか含まれていない紫外光を用いる必要がある。

研究グループは,これまで進めてきた金ナノ微粒子が持つ局在表面プラズモンを用いて可視・近赤外光を捕集し,光電変換を実現した研究をさらに発展させ,半導体光触媒に金ナノ微粒子を担持することで可視光応答性を付与し,アンモニアの合成を試みたところ,光アンテナで捕集した光に対応してアンモニアが生成することを見出した。

具体的には,チタン酸ストロンチウムの単結晶基板上に,光アンテナ構造として髪の毛の太さの1000分の1程度のサイズの金のナノ粒子(平均粒径50nm程度)を高密度に配置し,その背面に窒素をアンモニアへ変換する助触媒として,ルテニウムの微粒子を配置した電極を作製した。

作製した電極を金ナノ粒子側が酸化槽,ルテニウム側が還元槽に接するように設置し,酸化槽にエタノールを含むアルカリ性水溶液を,還元槽に酸性窒素ガスを封入し,可視光を照射することによりアンモニアの合成を行なった。

その結果,プラズモン共鳴に基づく電子とホールの分離が窒素のアンモニアへの変換に重要な役割を果たしていることが明らかになった。その原理は,光アンテナによって効率的に集められた光子によって金の電子が高いエネルギーレベルまで励起され,チタン酸ストロンチウム及びルテニウムへの電子移動と,ルテニウム表面上での窒素の還元によるアンモニアの生成を誘起しているものと考えられる。

特筆すべき点として,可視光領域のほぼ中心であり,太陽光に豊富に含まれる600nm近傍をピークとした光での窒素の反応に成功した。これは,これまでに報告されていた窒素の光反応では最も波長の長い光でも455nm程度の光エネルギーが必要だったのが,より長波長でエネルギーの低い光を光アンテナを用いて有効利用できることを示すもの。

今回の成果により,今後,反応効率の向上,応答波長の広帯域化を推進することで,水と窒素,太陽光エネルギーから効率的にアンモニアを合成する技術の開発,アンモニアを次世代エネルギーキャリアとして用いるアンモニア社会の実現への貢献が期待されるとしている。

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