東大,リチウムイオン電池と同等以上の性能を実現する新物質を発見

東京大学のグループは,既存材料の延長線上ではなく,全く新しい物質において,リチウムイオン電池と同等以上の性能を実現する新物質を発見し,その結晶構造を決定した(ニュースリリース)。

二次電池では,希少金属であるリチウムを資源的に豊富で安価なナトリウムで置き換えたナトリウムイオン電池が注目され,適合する電極材料の開発が行なわれている。しかし,既存物質の組成や構造を基本にリチウムをナトリウムに置き換えるだけでは,十分な性能を実現するには至っていない。特に,安価で資源リスクのない鉄を主体とする化合物を利用できるようにすることが切望されているが,極めて難易度が高いとされてきた。

研究グループは,これまで主流であったリチウム電池用䛾既存材料群を中心とした網羅的検討ではなく,汎用元素である鉄を主体とする全く新しい物質に活路を求めて探索を行なった。その結果,IMAやICSD等䛾データベース上に存在しない新物質を見いだし,その結晶構造を決定した。

この新物質は,ナトリウムイオン電池のプラス極の材料として機能し,従来不可能とされてきた3.8V(対リチウム換算では4.1V)の超高電圧を発生することができる。実際の動作時には,4.2Vから3.5Vの狭い範囲でなだらかに電圧が変化し,リチウムイオン電池と同等以上䛾エネルギー密度と同時に互換性も確保される。

加えて,電池反応が極めて高速で進行し,数分以下での急速充放電にも対応する。イオンの動きを理論的に解析したところ,結晶構造の中にナトリウムイオンが液体並みに動きやすい経路が存在することが解り,この新物質に特有の結晶構造が優れた高速電極特性の起源であることを解明した。

研究グループは今後,発見した新材料が秘める性能を最大限引き出すべく最適化を進めるとともに,実用化に向けた多角的な評価と問題抽出を行なっていく予定。加えて,実験・理論両面からの機能発現メカニズムの追求を引き続き行ない,得られた材料設計の指針をもとに,より高機能な材料開発につなげていくとしている。

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