名大,次亜ヨウ素酸塩触媒を用い天然型ビタミンEの高効率不斉合成に成功

名古屋大学は,光学活性次亜ヨウ素酸塩触媒による不斉酸化的六員環化反応を開発し,天然型ビタミンE(α—トコフェロール類)に代表される生物活性を有するクロマン類の形式的不斉全合成を達成した(ニュースリリース)。

天然物のなかにはクロマン骨格を有する生物活性物質が多く見つかっており,その多彩な生物活性及び構造的特徴のため,様々な光学活性クロマン化合物が医薬品として製造されている。図に示すクロマン誘導体の赤色で示される分子構造を一般にクロマンと呼ぶ。

その代表的な例として,抗酸化作用を有するα—トコフェロール(ビタミンEの主成分),トロロックスやMDL-73404,チロシナーゼ活性阻害剤であるジヒドロダエダリンA,抗がん作用を示すMerck社のC48やクルシフォリオール,高血圧の治療薬であるネビボロール,アルドース還元酵素阻害作用を持つSNK-860などを挙げることができる。

その中でも特に,α—トコフェロールは医薬品,食品,飼料などに広く含まれており,疾病の治療,栄養補給,酸化防止剤として利用されている。市販のα—トコフェロールの9割以上は合成品(DL-α-トコフェロール)で,3つのキラル炭素原子がすべてラセミの8種類の異性体混合物である。

一方,市販の光学活性体D-α—トコフェロールのほとんどは植物油から抽出したα—,β—,γ—,δ-トコフェロールの混合物をメチル化する半合成法で製造されている。トコフェロールの生理活性はクロマン環の2位の立体化学によって大きく異なり,D-α-体が最も強いことがわかっている。

α—トコフェロールを含むクロマン化合物の不斉合成法については,これまでに数多く報告されてきたが,その多くは遷移金属触媒によるカップリング反応であり,これらの触媒に含まれる金属種を最終生成物から完全に除くのが困難であるため,毒性が懸念される。また製造コストなどでの課題もあり,実用的とはいえなかった。

研究グループは,安全性が比較的高く安価な過酸化水素水またはtert-ブチルヒドロペロキシド(TBHP)を酸化剤に用い,遷移金属を含まない毒性の少ない第四級アンモニウムヨージド(R4NI)からin situで調製される次亜ヨウ素酸塩(R4NOI)を触媒とする酸化的カップリング反応(脱水素型カップリング反応)の開発に世界に先駆けて成功した。

この酸化反応では有害な物質を副生せず,室温という穏やかな条件で反応が進行する点が大きな利点であり,極めて環境にやさしい反応といえる。これらの成果は医薬品製造プロセスや新薬の開発研究に大いに期待されるとしている。