東大ら,鞭毛を動かす「エンジン」が正しい間隔で並ぶ仕組みを解明

東京大学,東京工業大学らの研究グループは,名古屋大学,米コネチカット大学,米マサチューセッツ大学との共同研究により,真核生物の鞭毛を動かすエンジンであるタンパク質「ダイニン」が,鞭毛を構成するタンパク質繊維「微小管」上に規則的に並ぶ仕組みを解明した(ニュースリリース)。

真核生物の鞭毛・繊毛は,細胞から生えた毛のような細胞小器官。その内部構造は原生生物からヒトまで共通の構造を持ち,2連微小管上にモータータンパク質「ダイニン」が規則正しく並んでいる。このダイニンが2連微小管間に滑り運動を起こすことで,鞭毛は波打ち運動を行なう。この運動は,精子や微生物などの運動など,さまざまな生物の多様な器官で重要な役割を担っている。

鞭毛が根元から先端に向かって規則正しく波を伝播するには,外側の「外腕ダイニン」,内側の「内腕ダイニン」が周期的に結合していることが重要と考えられるが,ダイニンがなぜ微小管に周期的に結合できるのか,そのメカニズムは分かっていなかった。

3つのタンパク質からなる複合体であるドッキング複合体を欠失した突然変異株の鞭毛には,外腕ダイニンの遺伝子に異常がないにも関わらず,外腕ダイニンが存在しないことが知られている。研究グループはドッキング複合体を単細胞緑藻クラミドモナスの「外腕ダイニンおよびドッキング複合体欠失株」の鞭毛に混合したところ,正しい場所に,24nmに1つの割合で結合した。

この結合には強い正の協同性(ドッキング複合体が微小管に結合すると,そのすぐ横に別のドッキング複合体が招き寄せられる)があることが,詳細な結合解析により判明した。これらの結果を合わせて,ドッキング複合体がいわば外腕ダイニンを並べるための「分子定規」のような役割を持っている可能性があることがわかった。

この成果は,鞭毛の構築メカニズムの理解だけでなく,外腕ダイニンの欠陥が主因と考えられているヒト疾患「原発性繊毛不動症候群」」(水頭症,不妊症,呼吸器疾患などを引き起こす)の研究に役立つと期待される。

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