東大ら,最高エネルギー宇宙線が過剰に飛来する「ホットスポット」の兆候を確認

東京大学宇宙線研究所を含むTelescope Array(TA)国際研究グループは,米国ユタ州に建設したTA宇宙線観測装置の地表粒子検出器で2008年から5年間で取得したデータを用いて,最高エネルギー宇宙線(エネルギーが5.7×1019電子ボルト以上の宇宙線)が過剰に飛来するホットスポットの兆候をとらえた(ニュースリリース)。

地球には広いエネルギー領域にわたって宇宙線があらゆる方向から等しく(等方的に)到来している。つまり,これまでに観測されていた宇宙線の到来方向分布においては,宇宙の「特別な方向」は見いだされていなかった。今回その兆候を確認したホットスポットは,北半球の空の特定の方向(直径約40度の範囲)にあり,その領域の大きさは北半球の空の6%に相当する。

5年間で観測した最高エネルギー宇宙線72事象のうち,最高エネルギー宇宙線が等方的に到来すると仮定した場合,直径40度の円内に最高エネルギー宇宙線の期待される観測数は4.5事象となる。しかし実際には,72事象の26%にあたる19事象が,北半球の空の特定の方向(直径約40度の範囲)から到来していた。この偏り(異方性)が等方的に到来する分布から偶然に現れる確率は,わずか10万分の37しかない。

TA宇宙線観測装置が対象とする最高エネルギー領域の宇宙線は,100km2の地表(山手線の面積程度)に一年に一例観測される程度の極めて稀な現象。しかし,今回,これまで北半球で稼働していた最高エネルギー宇宙線観測装置より7倍大きな面積(東京23区の面積程度)に展開した地表粒子検出器を用いて,数倍の統計量の最高エネルギー宇宙線事象を取得して,ホットスポットの兆候をとらえるに至った。

宇宙から地球に到来した最高エネルギーの宇宙線は,大気中の窒素原子核などと衝突して多数の二次粒子を生み,それがさらに衝突を繰り返して,最後には1000億個をこえる低いエネルギーの粒子群となって地上に降り注ぐ。これを空気シャワーと呼び,TA宇宙線観測装置の地表粒子検出器(Surface Detector: SD)は最高エネルギー宇宙線が大気中に入射した際に生成される空気シャワーからの二次粒子を地表で検出する。また空気シャワーから発生する大気蛍光を大気蛍光望遠鏡(Fluorescence Detector: FD)で検出する。

最高エネルギーの宇宙線は,銀河系外の遠い宇宙で発生したガンマ線バーストなどの天体爆発,あるいは回転する巨大なブラックホールをもつ活動的な銀河核から吹き出すジェットなどで生じると考えられているが,発生源は未だに特定されていない。今回のホットスポットの中心の方向には,特に知られた高エネルギー天体はなく,またそのの中心は複数の銀河団が集中している超銀河面の近くにあり,もっとも近い超銀河面から約19度離れている。

宇宙線がどのようにして1020電子ボルトに至るエネルギーを獲得しているかは,いまだに大きな謎となっている。研究グループでは今後,最高エネルギー宇宙線の観測例をさらに増やして,これら宇宙線の発生源となるような宇宙極高現象との関連を探るとしている。