国立遺伝学研究所,染色体のセントロメア形成に関わる分子スイッチを発見

国立遺伝学研究所の研究グループは,染色体分配に重要な働きを担うのがセントロメアが形成されるメカニズムを明らかにした(ニュースリリース)。

DNAを運ぶ染色体は,細胞分裂のたびに新たな細胞へと正確に分配されており,染色体分配に異常がおこると,細胞に様々な問題がおきる。がんを始めとする各種遺伝性疾患の多くは,染色体の分配不全が原因でおきていいるため,染色体分配についての研究は,基礎生物学の知識探求としてだけでなく,医科学的にも重要な課題となっている。

この染色体分配に重要な働きを担うのがセントロメアと呼ばれる領域。セントロメアは染色体の中央部に存在し,染色体が引っ張られるための足場として働いている。正確な染色体分配がおこるためには,染色体のある一カ所にセントロメアが形成されなければならない。しかしながら,セントロメアはどのように形成されるのかと言うメカニズムは不明だった。

これまでにわかっていたことは,長いひも状のDNAが巻き付くヒストンというタンパク質の特徴が,セントロメア形成に大きく関わっているということ。つまり,DNAは8個のヒストンに巻き付いているが,そのうちの一部に「CENP-A」というヒストンが含まれていると,そこにセントロメアが形成される。

しかし,単純にCENP-Aが存在するだけでは,セントロメアは形成できない。そこで,研究グループはCENP-Aを活性化する分子スイッチが存在するのではないかと予想した。

今回の明らかになったのは,この分子スイッチ。詳細な解析を行った結果,DNAが巻き付くヒストンとしてCENP-Aが取り込まれた後,残りのヒストンのうちのH4という種類のヒストンに特別な修飾が加わると,セントロメア形成が起こることが明らかになった。この特別な修飾とは,ヒストンH4の20番目のリシン(Lys)残基がメチル化されること。

セントロメア形成の分子スイッチを発見できたのは,高精度のゲノム解析や染色体工学を活用した技術開発による。これらの実験により,この分子スイッチがセントロメア形成に必須であることを証明できた。この分子スイッチを操作することによって,将来的にはがんをはじめとする染色体分配不全が原因でおこる各種遺伝性疾患の解明・治療も可能になるとしている。