東大,細胞内の高濃度カルシウムイオンをとらえるセンサを開発

東京大学大学のグループは,ミトコンドリアと小胞体のカルシウムシグナルを高解像度で捉えることが可能な蛍光タンパク質型カルシウムセンサー群「CEPIA」を開発した(ニュースリリース)。これにより,小胞体からのカルシウムイオン放出が細胞内を波状に伝わる様子,あるいは1つの細胞の中にカルシウムイオンを取り込むミトコンドリアと取り込まないミトコンドリアが存在することを鮮明に可視化できるようになった。

エネルギーを産生するミトコンドリアとタンパク質の合成にかかわる小胞体は,重要な細胞機能を担う,細胞が共通して有する細胞内小器官であり,これらの機能はカルシウムイオンの濃度変化(カルシウムシグナル)によって制御されることが知られている。

しかし,細胞内小器官におけるカルシウムシグナルを時間的・空間的に高い解像度で可視化する手法は乏しく,例えば,「細胞が刺激に応じてカルシウムシグナルが生じるとき,小胞体やミトコンドリア中のカルシウムイオンはどのように変動するのか」などの不明な点が多く残されていた。

ミトコンドリアおよび小胞体用のカルシウムセンサを作るには,センサのカルシウムイオンとの親和性を大幅に減少させ,検出する濃度域を調節する必要がある。そこで,研究グループは遺伝子工学によりカルシウムセンサにアミノ酸変異を導入することで,高濃度におけるカルシウムイオン濃度の変化を検出可能な変異型カルシウムセンサを作製した。

こうして得られた変異型センサに,ミトコンドリア・小胞体局在配列を付加することで,ミトコンドリア用CEPIA および小胞体用CEPIAを作製した。培養細胞に特定の刺激を与えると,細胞質中の局所で生じたカルシウムシグナルが波状に広がり細胞全体へと伝播する,カルシウムウェーブと呼ばれる現象が起こる。小胞体用CEPIAを用いることで,このときの小胞体カルシウムイオン濃度の様子を,小胞体の網目様構造が見えるほどの高い解像度で観察することに成功した。

また,緑色蛍光型小胞体用CEPIAを,赤色蛍光型ミトコンドリアカルシウムセンサおよび紫外光型細胞質カルシウムセンサと組み合わせることで,小胞体,ミトコンドリア,細胞質のカルシウムイオン動態を1つの細胞で同時に観察することに成功した。

さらに,明るさや反応性の大きさなど,より高い性能のセンサが要求される,生体内に近い条件下の神経細胞においても,CEPIAによって小胞体から放出されるカルシウムイオンを鮮明に捉えることができた。

今回開発したCEPIAによる可視化解析は幅広い細胞種に適用できるため,細胞機能の基礎的理解だけでなく,ミトコンドリアや小胞体が関わる病態研究にも新たな展開をもたらすことが期待される。