東大,大腸炎とそれに伴う細胞の癌化を抑制する物質を発見

東京大学の研究グループは,マウスにおいて炎症がおこった時に大腸組織に浸潤してくる免疫細胞の一種(マスト細胞)が,プロスタグランジンD2 (PGD2)という生理活性物質を産生し,このPGD2が腸炎の重症化やそれに続く大腸癌の発症を強く押さえる作用を持つことを発見した(プレスリリース)。

さらに,薬の投与によってPGD2のはたらきを刺激し活性化することで,大腸炎の症状が改善され,大腸癌の発症を抑えることに成功した。

研究グループは,全身においてPGD2の合成酵素を欠損したマウス(PGD2を産生することができない)では,正常なマウスと比較して,腸炎の症状が悪化することを明らかにした。デキストラン硫酸ナトリウムにより誘発された腸炎の症状において悪化が認められ,生存率も有意に低下した。

さらにこのPGD2を合成することができないマウスの大腸では,細胞内癌化シグナルの活性化を示すβ-カテニンの核内移行やDNAの塩基配列にメチル基を付与する酵素の遺伝子発現量が上昇し,ポリープの形成率が大きく上昇した。

正常なマウスで免疫染色を行なったところ,炎症に伴って組織に浸潤してきたマスト細胞がPGD2の合成酵素を強く発現していることが分かった。また,マスト細胞においてのみPGD2の合成酵素を欠損したマウスでは,腸炎の症状が悪化してポリープ形成が促進されることが分かった。つまり,マスト細胞が産生するPGD2が腸の炎症と癌化を抑制する物質であることが示された。

大腸癌は日本人が最も多く発症する癌の1つ。大腸癌のリスクは,炎症性の消化器疾患や,生活習慣に由来する慢性的な腸の炎症によって大きく上がる。慢性的な腸の炎症から大腸癌の発症へとつながるメカニズムは,炎症に反応して組織に浸潤してくる免疫細胞が各種の生理活性物質を産生し,これらの物質が炎症部位の細胞の異常な増殖(がん化)を刺激するためと考えられている。

つまり,炎症のもととなる疾患の治療や炎症の慢性化を防止すれば,大腸癌の発症を抑えられる可能性が高い。今回の成果は新しい腸炎に対する治療薬や大腸癌の予防薬の開発につながる可能性が期待される。