理研,遺伝子発現の抑制をつかさどるポリコム複合体が従来の考えとは異なる順序でDNAに結合することを発見

理化学研究所(理研)と英国オックスフォード大学との共同研究グループは,遺伝子発現の抑制をつかさどるポリコム複合体が,従来考えられていた順序とは異なる順序でDNAに結合することを発見した(プレスリリース)。

細胞が未分化の状態から特定の細胞へと分化する運命決定には,さまざまな遺伝子の発現(オン)・抑制(オフ)といった遺伝子発現の切り換えが深く関わっている。この遺伝子発現の切り換えをポリコムタンパク質群が管理している。

ポリコムタンパク質群は,PRC1,PRC2という2種類のポリコム複合体を形成し,この複合体がDNAに結合することで,遺伝子の発現を抑制している。また,最近,PRC1には,従来型PRC1の他に異性型PRC1の存在が明らかになったが,異性型PRC1の機能は分からないままだった。

共同研究グループは,人工染色体(BAC)を用いた新しい解析手法を開発し,ポリコムタンパク質がどのように複合体を形成し,遺伝子発現を制御するのかを詳細に調べた。その結果,ポリコム複合体のDNAへの結合の順序は,従来の概念とはまったく異なることが分かった。これまでは,最初にPRC2がDNAに結合し,PRC1を呼び寄せ,遺伝子発現を抑制すると考えられてきた。しかし,最初に異性型PRC1がDNAに結合し,PRC2,従来型PRC1という順番で呼び寄せ,遺伝子発現を抑制していることが明らかとなった。

遺伝子の発現調節メカニズムの解明は,形態形成だけでなく,細胞の正常な分化・脱分化の過程の解明,ES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)の分化のコントロールなど,発生に関わるさまざまな面で重要。今後,さらにポリコム複合体による遺伝子発現のオン・オフの切り換えの核心に迫ることで,将来的には再生医療やがん治療に応用できると期待される。