矢野経済研究所,2014年のタッチパネル用透明導電性フィルム市場の5.7%が非ITO系と予測

矢野経済研究所は,タッチパネルメーカ,透明導電性フィルムメーカ,その他部材メーカを対象に,世界の静電容量方式のタッチパネルセンサ用透明導電性フィルム市場の調査を実施した(プレスリリース)。

それによると,静電容量方式タッチパネル(タッチパネル)のフィルムセンサには,これまで主にITOフィルムが使用されてきた。2012 年のタッチパネルセンサ用ITO 系透明導電性フィルム(ITO)世界市場規模は,大手メーカのタブレット端末の出荷拡大に合わせて前年比229.1%の1,693 万㎡(メーカ出荷数量ベース)と大幅に成長した。

しかし,2013 年の同市場は,従来ITO フィルム2 枚使いであったフィルムセンサの部材構成がITO フィルム1 枚使いへとシフトしたことなどから伸び率は鈍化し,前年比140.0%の2,371 万㎡(〃)となった。2014 年以降も,需要の鈍化傾向も続くと考えるが,フィルムセンサ市場そのものは拡大しているため,タッチパネルセンサ用ITO フィルムの需要は今後も前年比2 ケタ増で推移するものと予測している。

一方で,ノートPC やオールインワンPC など大型製品を中心に,ITO フィルムに替わる低抵抗な透明導電性フィルムとして,銀(Ag)系,銅(Cu)系などの非ITO 系透明導電性フィルム(非ITO 系フィルム)が使用されるようになった。本格的な採用が始まったのは2013 年後半からであり,2014 年のタッチパネルセンサ用非ITO 系フィルム世界市場規模は180 万㎡(〃)の見込み。これは,ITO フィルムも含めた2014 年のフィルムセンサ用透明導電性フィルム市場全体3,148万 ㎡(〃)の5.7%を占める。

現在,タッチパネルセンサ用ITO フィルムの表面電気抵抗値(抵抗値)は,150Ω/□(ohms per square)前後がスタンダード。タブレット端末など7~10 インチ程度のサイズであれば問題なく使用できるが,ノートPC など14~15 インチ以上のものや,オールインワンPC など20 インチを超えるサイズでは,タッチの検出精度や反応スピードの問題により100Ω/□以下の低抵抗化が求められる。

ITO フィルムは視認性や骨見え(センサパターンが見える)の問題から100Ω/□までの対応が限界とされており,それ以下の低抵抗性能が求められるITO フィルムにはITO 膜厚を厚くする必要がある。しかし,ITO 膜厚を厚くすると,フィルムの透明性(全光線透過率)が低下するという課題があり,ITO フィルムメーカ各社では高透明,低抵抗を併せ持つグレード開発に取り組んでいる。

また,スマートフォンやタブレット端末のスリム化に伴い,タッチパネルの薄型化も進展している。そのため,ITO フィルムも薄肉化が求められている。フィルムセンサ用ITO フィルムの厚みは,以前は100μm のものが使用されていたが,2013 年後半には50μm 品がスタンダードとなり,2014 年に入り23μm 品の量産も一部始まっているとしている。

Ag NW(ナノワイヤ)フィルム,Ag メッシュフィルム,Cu メッシュフィルム等の非ITO 系フィルムは,ノートPCやオールインワンPCをはじめとする大型サイズのアプリケーションなど,主に抵抗値50Ω/□以下のセンサが必要とされる用途での採用が多い。ただ、Ag NWフィルムやAgメッシュフィルムはスマートフォンやタブレット端末など中小型サイズのアプリケーションでも採用されており,サイズを問わずに使用できるという点がユーザ企業から評価されている。

抵抗値は,Ag NW フィルムが50Ω/□,銀塩タイプのAg メッシュフィルムが50Ω/□,インプリントタイプのAg メッシュフィルムが30~40Ω/□,Cu メッシュフィルムが20~30Ω/□程度と,ディスプレイサイズが23 インチ程度のオールインワンPC にも十分に対応可能であり,さらには大型の電子黒板やデジタルサイネージなど,静電容量方式タッチパネルの新たなアプリケーションとしての採用も期待される。

最も参入メーカーの多いAg NW フィルムは,基材にAg NW 塗液をコーティングするものであり,ウェットコートの技術・設備を有するメーカにとって参入しやすい反面,Ag NW 塗液のサプライヤが限られており性能面での差別化がしにくい。また,AgメッシュフィルムやCuメッシュフィルムは,センサと引出線の一体成形が可能でセンサの生産プロセスを簡略化できるというメリットがある。

ただ,Ag メッシュフィルムは銀塩系,インプリント系ともに透明導電性フィルムメーカがセンサパターニングまでした状態で出荷するが,Cu メッシュフィルムはITO フィルムやAg NW フィルムと同様に透明導電性フィルムメーカがベースとなる透明導電性フィルムを生産し,センサメーカがセンサパターニングを行なうという生産プロセスの違いがある。

現時点では非ITO 系フィルムを使用したセンサにスタンダードと言えるものは無く,ユーザ企業サイドでは,それぞれのフィルムの抵抗値や電極パターンのインビジブル(不可視)性,生産コストなどを比較しつつ,最終的に自社の設計に最もマッチしたフィルムを選んでいるとしている。