原研,核磁気共鳴法により高速回転運動する物体中の原子核スピン情報の測定に成功

日本原子力研究開発機構(原研)の研究グループは,高速回転する物体中の原子核のスピンに着目し,回転運動が個々の核スピンに与える効果を直接測定する新しい手法を開発し,その効果の検証に成功した(プレスリリース)。

近年のナノテクノロジーの進展によって素粒子のスピンの方向を制御する研究が発展し,「上・下」という2種類の性質を用いて,デジタル情報の記録に応用する技術開発が進んでいる。また素粒子が持つスピンを回転運動によって制御することや,スピンを制御して回転運動を誘起する研究も進められており,既存のモータとは全く異なる原理で作動する素子の実現も期待されている。

しかし,スピンと回転運動の相互作用を量子力学的に検証するためには,回転運動する物体中の個々の素粒子のスピンを直接測定する必要があり,これまで実現されていなかった。

研究グループは,高速回転するカプセルの中に,NMR測定用の電気回路を組み込んだ装置を開発し,サンプルと電気回路をともに1秒間に1万回転(10kHz)させながら,核スピンが発する電磁波の回転応答の測定を行なった。その結果,高速回転運動にともなって,原子核スピンの場所に理論的に予想された通りの磁場が誘起され,その磁場を原子核スピンの回転の変化として直接測定することに成功した。

この研究によって,物体の回転運動が個々の原子核スピンに与える効果を直接観測することが可能となった。ナノスケールの物体運動とスピンの量子力学的相互作用を本格的に調べることが出来るようになり,ナノモータ開発への道が拓けた。また,流体中の渦運動のような局所的な回転運動を核スピンを通じて解析する,新しい核磁気共鳴画像法の開発が期待される。