名大,アルツハイマー病関連分子の脳内分布を3次元イメージングすることに成功

名古屋大学 環境医学研究所教授の澤田誠氏らの開発チームはアルツハイマー病関連物質のマウス脳内での3次元分布状況を測定することに成功した(プレスリリース)。この成果は,JST先端計測分析技術・機器開発プログラムの一環として開発された「質量分析イメージング技術」により得られたもの。

アルツハイマー病の発症の原因物質の可能性が高いとされるアミロイドβは,「単量体」が凝集すると水に溶けにくい繊維形状の「重合体」になり脳に沈着する。この単量体と重合体の分布状況を把握することで,アルツハイマー病の発症メカニズムの解明や治療薬の開発が期待できるが,これまで脳内における3次元分布を測定した例はなかった。

開発チームは,独自に開発した「座標再現機能」を使って,性質の異なる分析機器を連携させる技術をすでに確立していた。これは,生物顕微鏡や細胞組織スライド用スキャナ装置の画像データが示す位置,、物質的な分析を行なうために目的部位を切り出す「顕微レーザマイクロディセクション(LMD)装置」のレーザを用いる位置とを対応付けるために位置座標を正確に再現する技術。

しかし,切り出してくる小片は大きくてもせいぜい100㎛程度の微小片なので,紛失してしまう危険も大きく,取り扱いが非常に困難だった。さらに,組織小片やその破砕物をそのまま質量分析した場合は,分析に不適な物質も含まれているので,データの有効性が損なわれるという問題があった。

開発チームは,これらの課題を解決するために熱溶融性フィルムを使って,一度小片をフィルムに貼り付け,そのフィルム上で質量分析できる技術を開発した。これにより,生体組織上のある部分から網羅的に位置情報を持った小片を切り出すことができ,余計なものが混じったピークを抑制した高感度な質量分析が可能になった。

この技術を用い,アルツハイマー病のモデルマウスの脳から連続した層状の組織片を切り出し,その上の複数のポイントをレーザと熱溶融フィルムを用いて格子状にサンプリングし,それぞれについて質量分析を行なった。この工程を各層で繰り返し,測定データを正確に再構成することで3次元の分布状況が分かる技術を確立した。

この技術により,アルツハイマー病のモデルマウスの脳内ではアミロイドβの単量体と2量体の空間分布が異なることが世界で初めて検出できた。今後,さらに詳細な観察を行なうことで,アルツハイマー病の発症メカニズムに迫ることが期待される。