九大,神経障害性疼痛の原因となるタンパク質を同定

九州大学の研究グループは,神経のダメージで発症する慢性的な痛み(神経障害性疼痛)の原因タンパク質として「IRF5」を突き止めた(プレスリリース)。神経障害性疼痛は,がん,糖尿病,帯状疱疹あるいは脳卒中などで神経に障害が起きると発症する慢性痛で,抗炎症薬やモルヒネなどの鎮痛薬が効きにくい。

しかし,これまでそのメカニズムは明らかになっておらず,効果的な治療法もない。研究グループでは,脳や脊髄の免疫細胞と呼ばれる「ミクログリア」が,神経損傷後の脊髄で活性化した状態になり,それが慢性的な痛みを引き起こしていることを明らかにしている。

ミクログリアは,細胞の働きを調節するタンパク質が増えることで活性化状態となるが,その中でも,研究グループが2003年に発表したP2X4受容体は神経障害性疼痛の発症に非常に重要な役割を果たしていると考えられている。しかし,どのようなメカニズムでP2X4受容体がミクログリアの中だけで増えるのかは長らく不明だった。

今回研究グループは,神経を損傷させたマウスの脊髄で,様々な遺伝子の発現をコントロールするタンパク質「IRF5」がミクログリアの中だけで増えることを発見した。この増加は,同グループが報告したIRF8によって調節されていることもわかった。

また,IRF5を作り出せないように遺伝子を操作したマウス(IRF5遺伝子欠損マウス)では神経損傷後の痛みが弱くなっていた。さらに,IRF5がP2X4受容体の調節に必要な遺伝子領域に作用し,P2X4受容体を増やすように働いていることを明らかにした。

したがって,神経損傷後,IRF8によってミクログリアで増えるIRF5がP2X4受容体を増やすという一連の流れが,神経障害性疼痛を引き起こす原因であることを明らかにした。

研究グループは今後,IRF5が増えるのを抑制する,あるいはIRF5がP2X4受容体遺伝子に作用するのを抑制する薬などを既承認医薬品から探索する計画を検討している。