富山県立大,鏡像異性体を高純度で生産する方法を開発

富山県立大学教授の浅野泰久氏,同研究員の安川 和志氏らは,アミン化合物(R型α-メチルベンジルアミン,(R型α-MBA))に作用する新しい酵素を開発、,この酵素を用いて鏡像異性体であるα-MBAの左手系(S型)のみを100%の高純度で生産する方法を開発した。 この酵素とR型α-MBAの複合体の立体構造を,KEKフォトンファクトリーのX線結晶構造解析によって決定,その反応機構を分子レベルで解明した。

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有機化合物の中には,全く同じ組成でありながら,立体構造的には実像と鏡像の関係にある2種類ができるものがある。これを鏡像異性体とよび,右手系(R型)と左手系(S型)と区別している。 両者の性質は生物の体内では異なり,特に医薬品に使われるサリドマイド分子では左手系は催眠・鎮静作用があるのに対し,右手系は胎児への強い催奇性を持つことが知られている。このような背景から,医薬品などの開発では鏡像異性体を低コスト・高純度で作り分けることが重要となっている。

研究グループは,医薬品原料として利用されているα-MBAに注目し,S型とR型の混在しているα-MBAから100%S型のα-MBAを作る方法の開発に取り組んできた。 今回,ブタ腎臓由来のD-アミノ酸酸化酵素からR型のα-MBAだけに作用する酸化酵素を世界で初めて開発した。

この酵素をS型とR型の混在しているα-MBAに作用させると,R型のみが中間体α-メチルベンジルイミンに変換され,再びα-MBAに還元される過程でS型とR型が50%ずつできる。ここに再び酵素を作用させ,R型を変換,この工程を繰り返すことで,純度100%のS型α-MBAを得ることに成功した。

今回開発したこの方法はにより,従来の手法の倍の収率でS型α-MBAを生産でき,鏡像異性体の選択的生産の高効率化,低コスト化に有用で産業利用が期待される。

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